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血中BNPやNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について

日本心不全学会予防委員会
斎藤能彦  奈良県立医科大学 第一内科  (委員長)
吉村道博  慈恵会医科大学 循環器内科  (副委員長)
福田恵一  慶應義塾大学医学研究科 循環器内科
錦見俊男  京都大学医学研究科 内分泌代謝内科
佐藤幸人  兵庫県立尼崎病院 循環器内科

外部評価委員
泰江弘文  熊本加齢医学研究所 所長 熊本大学名誉教授
堀正二   大阪府立成人病センター 総長 大阪大学名誉教授
和泉徹 新潟南病院 北里大学名誉教授
百村伸一 自治医大さいたま医療センター センター長 循環器内科教授
蔦本尚慶 豊郷病院 院長

はじめに

BNPやNT-proBNP は、わが国の臨床現場で心不全診療を支える補助診断法として広く浸透して参りました。しかし、測定する機会が増えれば増えるほど、得られた血中濃度をどのように理解し、心不全医療に還元すればよいのか戸惑うことも多くなったとのご指摘を度々受けております。そこで、日本心不全学会では、BNPやNT-proBNP値を心不全診療に適切に反映して頂くことを目的に今回のステートメントを作成いたしました。なお、ステートメントの作成にあたりましては、わが国の各種のデータ、日本循環器病学会の慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)および急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)、欧州心臓学会の急性・慢性心不全ガイドライン(2012年改訂版)などを参考にしております。

BNPとNT-proBNPについて

BNPとNT-proBNP生成は同じBNP遺伝子に由来します。BNP遺伝子からは、転写・翻訳後、BNP前駆体(proBNP[1-108])が生成され、その後、生理的に非活性のNT-proBNP(proBNPのN端から76個のアミノ酸[1-76])と生理活性を有する成熟型BNP(残りの32個のアミノ酸[77-108])に切断されます。つまり、BNPとNT-proBNPは心筋から等モルで分泌されています(図1)。

BNPやNT-proBNPは、主として心室にて、壁応力(伸展ストレス)に応じて遺伝子発現が亢進し、速やかに生成・分泌されます。従って、壁応力が増大する心不全では、その重症度に応じて血中濃度が増加します。両ペプチドとも心室のみならず心房からも10%ほど分泌されます。そのため、心房細動などでも軽度上昇します。
心筋へのストレス以外にも、両ペプチドの血中濃度に影響を与える因子があります。例えば、BNP、NT-proBNPともに腎機能の低下に合わせて血中濃度が上昇します。特にNT-proBNPはその代謝の殆どが腎臓からの濾過による排泄に依存しているために軽度の腎機能低下でも影響を受け、eGFR30ml/min/1.73m2未満の症例では増加の程度が大きくなります。また、高齢者でも一般に両ペプチドとも血中濃度が上昇します。さらに、急性炎症でも高い値を示すことがあります。逆に、肥満者では非肥満者より両ペプチドとも低値を示します。従って、今回のステートメントに使用されている数値の解釈をする場合にはこれらの因子に配慮することも必要です。
両ペプチドの測定にあたっては、BNPは血漿を用い、NT-proBNPは血清または血漿を用います。

それぞれの閾値について

BNPやNT-proBNP値を心不全診療に活かす第一歩は、心不全の早期診断です。その閾値を図2に示しました。わが国では、BNPのデータが主であり、NT-proBNPは比較的少ないことから、BNPを主体に作図しました。また、この図は初めて心不全を疑ってBNP値を測定した症例を想定しております。

●正常値は一般に普及している18.4pg/mlを用いました。この値より低い場合には、潜在的な心不全の可能性は極めて低いと判断されます。
●血中BNP値が18.4-40pg/mlの場合は、心不全の危険因子を有している症例でも、直ちに治療が必要となる心不全の可能性は低いと判断されます。ただし、BNPだけでは心不全の程度を過小評価してしまう場合(収縮性心膜炎、僧帽弁狭窄症、発作的に生じる不整脈、一部の虚血性心疾患、高度肥満などを伴う心不全)もあるので、症状や症候を十分に加味して判断して下さい。
●40-100pg/mlの場合には、軽度の心不全の可能性があります。危険要因が多い症例や心不全を発症する基礎疾患を持っている症例では、胸部X線、心電図、心エコー図検査の実施をお勧めします。ただ、この範囲では、重症心不全である可能性は低く、BNP上昇の原因がある程度特定できれば、そのまま経過観察することも可能でしょう。
●100-200pg/mlの場合は、治療対象となる心不全である可能性があります。心エコー図検査を含む検査を早期に実施し、原因検索をお願いします。もし、心不全を疑う所見が得られ、対応が難しいようであれば専門医にご紹介下さい。
●200pg/ml以上の場合は、治療対象となる心不全である可能性が高いと思われます。原因検索に引き続き、症状を伴う場合は心不全治療を開始して下さい。更なる診療が必要な場合には専門医での対応を考慮して下さい。

上記のBNP値に相当するNT-proBNP値については、現段階ではコンセンサスが得られていません。そこで、本ステートメントでは以下の提案をいたします。BNP 40pg/mlに対してはNT-proBNP 125pg/ml、BNP 200pg/mlに対してはNT-proBNP 900pg/mlといたします。

NPやNT-proBNPを用いた心不全管理について

慢性心不全と既に診断が確定している症例で、BNPやNT-proBNPガイド下に治療をすすめることが可能と思われます。しかし、このガイド下治療は再入院の減少に繋がるとの報告はありますが、死亡率の減少に有効であったというエビデンスは未だありません。この点は今後の重要な検討課題です。基本的に、BNPやNT-proBNP値をある数値以下に維持しなければいけないという絶対的な目標値はありません。実臨床では個々の症例に最適なBNP値やNT-proBNP値を見つけ、その値を維持する包括的な疾病管理、つまり、生活習慣の是正(断煙、断酒、減塩、食事や運動の適正化など)と適切な薬物治療が重要です。また、心不全管理中のBNPやNT-proBNP値は過去との比較が大切です。前回に較べて2倍以上に上昇した時には、何か理由があります。その原因を探索し、早目の介入が必要でしょう。可能であれば薬剤を調整して心不全のコントロールを強化して下さい。

おわりに

BNPやNT-proBNPは有力な心不全のバイオマーカーです。心不全診療の補助手段としてはとても有力ですが、これだけで基礎疾患は分かりません。つまり、BNPやNT-proBNPのみに基づいた心不全診断や疾病管理はありえません。症状をよく聴き、徴候をよくみて、他の検査と合わせて総合的に判断を下すことが大事であります。BNPを上手く使うことで、より良い心不全の診療が我が国に広く行き届くことを願っております。

参考文献
1. 慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010_matsuzaki_h.pdf
2.急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_izumi_h.pdf
3. ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure 2012. Eur Heart J 2012;33:1787

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