日本神経精神薬理学会
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学会レポート

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学会レポートシリーズ 2014年国際神経精神薬理学会
(CINP: The International College of Neuropsychopharmacology)その8
名古屋大学大学院 医学系研究科 精神医学分野 吉見 陽

 第29回国際神経精神薬理学会(29th CINP World Congress of Neuropsychopharmacology; CINP2014)がブリティッシュ・コロンビア大学精神科教授でCINP前理事長であるAnthony George Phillips先生を大会長として、2014年6月22日(日)から26日(木)の5日間にわたり、カナダ・バンクーバーのコンベンションセンターで開催されました。CINP2014では日本神経精神薬理学会よりJSNP Excellent Presentation Award for CINP2014を授与いただきまして誠に光栄に存じます。ご指導賜りました先生方並びに学会関係者様にはこの場を借りて心より御礼申し上げます。参加致しました学会の様子についてご報告させていただきます。

 会期中は大きな天候の崩れもなく程よい気候に見舞われ非常に過ごしやすく、会場では多くの参加者の熱気に包まれていました。CINPへの参加は初めての経験で、特に印象的だったのは日本からの参加者が多く、初日のCINP2014 Japan Nightには総勢約120名もの神経精神薬理学者が一堂に会して懇親を深める機会があり、とても有意義な時間を過ごさせていただきました。

 本大会は基礎研究と臨床研究に加え、両者を橋渡しするトランスレーショナルリサーチの成果報告があり、研究者の間では双方向性のアプローチについて様々な視点から活発な議論が交わされていました。Japanese SessionではHerbert Yale Meltzer先生がフェンシクリジン(phencyclidine; PCP)投与モデルの統合失調症様認知機能障害について、神経伝達機能の変化を薬理学的に検討し、5-HT1A部分作動作用、5-HT2A、5-HT7拮抗作用、GABA作動作用、弱いD2拮抗作用が認知機能障害を改善することを報告しました。また、治療抵抗性を示す統合失調症患者の全ゲノム関連解析(genome-wide association study; GWAS)より同定されたtrace amine associated receptor 1 (TAAR1)の作動薬がPCP投与モデルの認知機能障害に効果を示し、新規抗精神病薬の標的としての展望について発表されていました。廣井昇先生はヒト染色体22q11.2のコピー数変異(copy number variants; CNV)の効果について、欠失領域や欠失サイズによりその効果が異なることを明らかにしており、筆者所属の研究室でも全ゲノムCNV解析を実施していることもあり非常に興味深く拝聴させていただきました。橋本亮太先生はヒト脳表現型コンソーシアム(Human Brain Phenotype Consortium; HBPC)の活用による脳機能とその分子基盤の新しい研究アプローチについて紹介され、GWASによる成果を発表されました。HBPCでは精神疾患患者の臨床検体(DNA、RNA、血清、リンパ芽球様細胞株など)の集積も行っており、貴重な研究資源と臨床情報のバイオバンクとしての機能が期待されます。菊地哲朗先生は製薬企業の立場で抗精神病薬の開発について実体験を踏まえて非常に分かりやすく発表されました。このJapanese Sessionに限らず、CINP2014のプログラムを総括すると、基礎と臨床、その橋渡しの研究成果を凝縮した構成となっており、神経精神薬理学者にとって非常に有意義なものであったのではないかと感じました。

 筆者はリンパ芽球様細胞株のプロテオーム解析による統合失調症関連分子の探索を実施し、統合失調症と健常者の判別応用性についての検討を発表しました。精神疾患のバイオマーカー研究は国内外の関心事のようでシンポジウム(S-29 Clinically useful biomarkers in psychiatry: The promise and problem)は満席でした。オミックスアプローチにより様々な候補遺伝子・分子が報告されていましたが、バイオマーカーの同定・確認、解析法開発、臨床検体における確認、臨床現場での使用など、開発工程における多くの問題点が議論され、開発の重要性とともにその実現の困難さを実感しました。

 本学会では自身の研究分野以外の発表に触れる機会がありとても多くの刺激を受けました。今後とも精神疾患の病態解明や診断法・治療法確立のため、日々精進し、社会に還元できる成果を目指して研究に励む所存です。