日本神経精神薬理学会
ホーム 入会案内 会員ログイン お問い合わせ

日本神経精神薬理学会

〒112-0012
東京都文京区大塚5-3-13
学会支援機構内
TEL:03-5981-6011
FAX:03-5981-6012
jsnp@asas-mail.jp

学会レポート

≪元のページに戻る
欧州神経精神薬理学会(ECNP)参加記
アッヴィGK医学統括本部 梶井 靖

神経精神薬理の学会として規模の点では恐らく最も大きく、また組織としても成功している欧州神経精神薬理学会(European College of Neuropsychopharmacology)の2013年大会が10/5-9の日程でスペインの人気都市・バルセロナにて開催された。2007年にウィーンで開催された際にシンポジストとして招待されて以来になるが、今回、欧州製薬企業の動向把握を目的として本学会に参加してきたので、そうした視点を交えて雑感ながら報告したい。

 まず、本学会の特徴として、最先端科学を議論するというよりは、多くの研究者や医療関係者が精神神経薬理の課題として認識しているトピックスをあらためてじっくりと見つめ直したり、これまで議論されてきた課題がどのようなリアリティに繋がり得るのかを再確認したりといった、腰を落ち着けた雰囲気がある。逆に言えば、先進性という点では米国神経精神薬理学会(American College of Neuropsychopharmacology, ACNP)には及ばないとも言える。製薬企業の参加という点では、多くのサテライトシンポジウムをスポンサーしたり、ブースを華やかに展開したり、良い意味で活気に溢れていた。この点でも、製薬企業の意図によって学術的議論にバイアスがかからないことを過度に意識して一切のブースや関連イベントを排除しているACNPとの違いが見て取れる。一概にどちらが正しいとも言えないが、バランスのとり方という意味では日本神経精神薬理学会としても参考になる点があるように思う。

 上記の1例として、統合失調症に関するNMDA仮説の取り扱いを挙げてみよう。統合失調症の病態生理としてNMDA受容体機能低下が提唱されて久しいことは皆さん良くご存じのことかと思うが、これを具体的な治療手段として実現しつつある企業が出てきている。これに連動して、本プログラムにおいてunmet needsに応える可能性として脱ドーパミン仮説による治療への期待が議論され、当該企業はNMDA受容体仮説にフォーカスしたサテライトシンポジウムをサポートし、さらにはブースにおいて『NMDA受容体が脳機能にいかに重要であるか』という基礎神経化学を解説する(展示されていたアニメーションの出来が秀逸で、教育資料としては実に魅力的)。こうした一連の活動を通じて、新しい治療手段の実現を学会としてサポートしている様子が伺えるが、結果として、このある企業にとっては格好の事前宣伝の場となっていることもまた事実であった。このあたりは、学術的な情報発信と公平性とのバランスという点でなかなか判断が難しいところであろう。一連の情報をまとめて整理する機会としては参加者にも一定のメリットがあったのではないかと思うが、個人的には、この話題に関して新しい情報はほぼ無かった、ということにも言及せざるを得ない。

 創薬という観点から印象に残った2つのレクチャーも紹介しておきたい。1つ目は、Dr. Angela Vincentの”Autoimmune processes in psychiatric disorders”で、中枢機能に関わる分子に対する自己抗体が引き起こす神経精神症状とその免疫療法による治療をレクチャーされた。内容的に新しいものではないが、神経症状と免疫療法によるその治療の実像をビデオで見せられると、改めて現象の要因を把握してこれに対処するという、いわば当然のアプローチが神経精神疾患と言えどもいかに重要かということを思い知らされた。自分自身、もう20年近く前からこの分野での分子生物学的アプローチに参入して来ているのだが、どこかで『この分野は因果関係の把握が難しいから』という言い訳を使ってはいなかったか?とその夜は自問していた。2つ目はDr. Marc CaronのドーパミンD2受容体の細胞内シグナル解析に関するレクチャー(タイトルは変更になっていたようだが、正確に記録できず)。先に“脱ドーパミン仮説”云々と書いておいて矛盾するようだが、上記のレクチャーと同様に『改めて考えてみる』というECNPの特徴が現れた演題のように思う。D2受容体はGPCRであり、GPCRは長らくGタンパクを介した細胞内シグナルを中心に議論されてきたが、近年ではβarrestine経路が着目されていることも本学会参加者にはよく知られたことである。Dr. Caronは抗精神病薬の薬効が後者に依存し、前者が錐体外路症状等の副作用に関わることを特異的リガンド創製による薬理学的解析とMedium Spiny Neuronを狙った遺伝子工学を駆使することによって明らかにしていく様子をレクチャーされた。副作用を排除することは創薬に関わるものにとって理想とするところであり、副作用回避のためには如何に『特異性を高める』か、ということが重要になる。本レクチャーではリガンドデザインによるシグナル制御特異性(機能的特異性)を高めることが解決手段の1つであることを具体的に提示しており、改めて傾聴すべき点が多々あった。一方で、企業が創薬事業に出資するには市場において資金回収が見込まれることが条件であり、副作用を徹底的に排除した新しいD2遮断薬を抗精神病薬としてこれから開発することは現実的には想定し難い。D2受容体と抗精神病作用の因果関係を徹底的に解明して行くDr. Caronのアプローチは、今後新たなターゲットに対して創薬を行う際に大いに参考になることだろう。

 ところで、バルセロナ、と言えば天才建築家ガウディである。最終日の午後、まずは今年で101年目を迎えるガウディ作の集合住宅、カサ・ミラを見学。生物学的モチーフを取り入れながら快適な住空間を提供するそのデザインの斬新さは1世紀を超えてなお輝いていた。カサ・ミラの1Fには当時のままの空間を生かしたレストランが営業しており、そこで遅めのランチを取った後にサグラダ・ファミリアを見学。今度は1世紀経ってもなお建築を続けている壮大なアイディアに圧倒され、バルセロナ最後のディナーに絶品パエリアを頂いて身も心も一杯となった。

 ・・・・・と、翌日にこのレポートをバルセロナ空港で書きつつも、周囲の状況に不安がよぎる。次の目的地は本社会議のためにシカゴで、ミュンヘンで乗り継いで大西洋を渡る。ミュンヘン空港の国際線乗り継ぎには40分程度は必要とのことで、余裕を持って90分の乗継設定なのだが、一向に搭乗が始まらない。50分ほど遅れたところで搭乗開始、ひょっとしたら間に合う?と期待して着席すると、なぜかキャプテンがマイクを持って乗客の前に立った。いわく、『我々はさらにここで40分ほど待ちます。』これでアウト確定、結局、この乗継便は2時間以上遅れ、ミュンヘンで1泊することになり、シカゴ本社での会議はキャンセルされた。その夜、思いがけずにドイツビールとソーセージを頂きつつ、キャプテンの最後の一言を思い出す、『我々はラッキーだ、このフライトはキャンセルされなかったのだから。』キャプテンを信じてみよう。でも、乗継便には要注意だ。