日本神経精神薬理学会
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学会レポート

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学会レポートシリーズ 2013年アジア神経精神薬理学会
(AsCNP:Asian College of Neuropsychopharmacology)その1
慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室 内田裕之

 この学会への参加は昨年からすでに決めていた。韓国と台湾の知り合いの先生とシンポジウムを提出することを予定していたため、その申請が受理されれば行くことにしていたのである。こんなことでもない限り、北京に行く機会はなかったかもしれない。直前に学会場が変更になり、宿泊先も間際になって2回も変更された。そして徐々に私の心は重くなっていった。

 私が出発する前日、後輩3名が北京に旅立った。そのうち一人(T君)は集合場所を間違えて成田に行ってしまい、時速150キロのタクシーを飛ばして1時間で羽田に戻ったという。日本神経精神薬理学会AsCNP優秀発表賞およびAsCNP Travel Fellowshipを今回頂くことになった私はもちろんその様なヘマをせず、堂々と機上の人となり、そして空から見ると真っ黄色な煙に包まれた北京に悠然と降り立った。

 一言も発することなく入国審査は完了し、1時間後にようやく出てきた荷物を受け取り、タクシー乗り場に向かった。客をタクシーに振り分ける空港係員が、なぜか私だけ見慣れない白いバンに誘導する。正規の係員の言うことなので従ってしまったが、これが白タクであった。通常なら100元もしないところを600元(約1万円)という法外な値段を吹っ掛けられ、最終的に300元を支払う羽目になった。もはや受賞の資格はないのではないかと深く悔いた。5秒間撃沈したが、このまま落ち込んでは完敗であり、その300元を授業料とあきらめ同じ過ちを一生繰り返さないことを自分自身に誓った。またその額が、T君が成田―羽田間で支払った料金より安いことが私の傷を少し癒した。

 さて、ホテルで荷解きをし、早速学会場に向かう。本来あるはずのシャトルバスサービスが無くてももはや驚かない。途方に暮れていた香港人医師と一緒にタクシーに乗り込む。このようにして知り合いが増えるのも学会の楽しみである。会場では若手向けの精神薬理学に関する教育講演があり、Tang教授が抗うつ薬にとどまらず、うつとは何か、幸せとは何か、という非常に示唆に富む内容のお話をされていた。そして夜はもちろん宴会である(写真:著者は一番右)。むしろこれが学会である。一緒にシンポジウムを企画した韓国のKim Euitae先生、そして私の後輩らとホテルのバーで、学術的なことから非学術的なことまで幅広く議論し、白タクで受けたダメージは徐々に回復していった。

 13日(金曜日)。仏滅。私は仏教徒でもキリスト教徒でもないが、今日はどんな苦難が待ち受けているのか不安になった。しかしそれが杞憂であったことは後になって知る。まず参加したのはオープニングセレモニーである。人民会議場のような巨大な会場で執り行われ、各先生が登壇されるたびに、なぜかロス五輪のテーマ音楽が流れ、一同唖然とする中、セレモニーは粛々と進んでいった。その中で、山脇教授のグローバルな視点に立ったご発言は非常に印象深かった。精神薬理研究においてアジアにプレゼンスをどのように高めていくかは極めて重要であり、それは研究そして患者さんのケアの向上に結び付く。若手と分類される私ももはや39歳である。堀部安兵衛や坂本竜馬はとっくに亡くなっていた年齢でもあり、さらに気合いを入れて精進する必要性を強く感じた。この日の残りは、やや閑散としたポスターセッションに参加し、知り合いの先生と旧交を温め、そして裏のメインイベントに突入する。

 今回ともに北京に来た後輩のMは育ちの良い男である。忘れっぽいこと以外は完璧に近い。彼のお父様のお知り合いのおかげで、北京でも有数の中国料理店に行くことになった。何より我々が楽しみにしていたのは、そのレストランの個室で観られる“変面ショー”である。テンション高めの音楽に合わせて、伝統的な衣装の仮面の男がリズミカルに踊り、仮面が目にも止まらぬ速さで次々に変わるのである。ぜひYoutubeでご確認いただきたい。レストランの料理が素晴らしかったことに加え、このショーの完成度の高さに我々のテンションは上がりまくり、皆口々に「北京に来てよかった!」と心の底から叫んでいた。そして、白タクの思い出は完全に過去のものとなった。

 最終日、土曜日。自分が企画したシンポジウム(Bridging Brain Imaging Data to Real-World Clinical Practice:シンポジストKim Euitae先生, Yuan-Hwa Chou先生、中島振一郎、そして私)の日である。土曜日の朝だったこともあり、集客はいま一つであったが、画像研究をどのように臨床に役立てるかという観点から活発なディスカッションが行われ、非常に有意義な実りあるものとあった。また、最近熱心に英語の勉強をしている後輩のYが堂々と英語で質問している姿を見て心強く思った。

 そして、私は今、北京空港にいる。中国国際航空のフライトは既に2時間遅れている。しかし、そのおかげでこの文章を書き上げることが出来た。空は晴れている。私の心も晴れている。次回AsCNPは台北で開催されるという。台北は大好きな都市だ。微力ながらアジアでの精神薬理研究への貢献及び自分自身の楽しみのために必ず参加しよう。そして、メーターのついた車に乗ることにしよう。