日本神経精神薬理学会
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NeuropsychoTRENDS

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薬物依存の分子メカニズムと治療薬開発の方向性
2013.4
高松幸雄、池田和隆
東京都医学総合研究所・依存性薬物プロジェクト

 現在の薬物依存の治療は、幻覚や妄想などの精神病症状への対応に比べて「欲しさ」への対応が不十分なために根治は難しい。しかし最近、「欲しさ」の分子メカニズムに関連する研究報告を活かした依存治療薬の探索が進められている(大谷他、日本神経精神薬理学雑誌、25:227-233, 2005)。

 「欲しさ」に結びつくメタンフェタミンやコカインによる報酬効果は、これらがドーパミントランスポーター(DAT)に作用してドーパミン神経伝達を亢進させるために生じると考えられてきた。しかし、コカインを欲しがる行動はDAT欠損マウスでも失われず、DAT と同時にセロトニントランスポーター(SERT)を欠損あるいは半減させたマウスで失われた。(Sora et al., Proc Natl Acad Sci,98:5300-5305, 2001)。これらの報告は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)が「欲しさ」を抑制する可能性を示している。実際我々は、SSRIであるフルオキセチンの前処置が、野生型マウスにおけるメタンフェタミンへの「欲しさ」を減弱させることを見出した (Takamatsu et al., Ann N Y Acad Sci, 1074:418-426, 2006)。しかし、その後の詳細な検討でフルオキセチンに加えてパロキセチンも「欲しさ」を抑制するものの、SSRIであるフルボキサミンは抑制しないことが明らかになった (Takamatsu et al., Curr Neuropharmacol, 9:68-72, 2011)。小林らは、これらのSSRIのGタンパク質活性型内向き整流性カリウム(GIRK)チャネルへの親和性を生体外で検討し、この親和性がフルオキセチンとパロキセチンにはあるがフルボキサミンにはないことを報告した(Kobayashi, et al., Nuropsychoparmacoligy, 29:1841-1851, 2004; Kobayashi, et al,. J. Pharmacol. Sci., 102:278-287, 2006)。Morganらは、コカインへの「欲しさ」を調べる自己投与実験を行い、GIRKチャネルを欠損させたマウスでは自己投与が抑制されることを明らかにした(Morgan et al., Neuropsychopharmacology, 28:932-938, 2003)。 これらの結果より、SERTだけでなくGIRKチャネルも依存治療の有望な標的であると考えられる。

 最近、薬物依存患者の病態、特に再使用リスクを評価する、客観的評価尺度が標準化され(妹尾他、日本アルコール薬物医学会雑誌、41:368-379、2006 年;Ogai et al., Drug Alcohol Depend, 88:174-181, 2007;Ogai et al., Drug Alcohol Depend, 101: 20-26)、ネット上でも公開されている(http://www.igakuken.or.jp/abuse/)。これらの尺度を用いることで、GIRKチャネル阻害能を有する治療薬を処方されている患者群では再使用リスクが低減する可能性が示されつつある(Ogai et al., Jpn J Neuropsychophamacology, 31: 95-96; Sugaya et al., Jpn J Neuropsychophamacology, 32: 165-167)。