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NeuropsychoTRENDS

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アルツハイマー病新規治療法
2013.4
毛利彰宏
名城大学薬学部 病態解析学I
鍋島俊隆
名城大学薬学部 地域医療薬局学

 認知症はもの忘れから始まり徐々に徘徊などの行動をするようになる進行性の疾患である。認知症の大部分を占めるアルツハイマー病の患者の脳にアミロイドβ(Aβ)が沈着し、Aβが神経毒性を示すことから、アルツハイマー病の原因はAβであるという仮説が有力である。そのため、Aβを患者に数回にわたり注射することで、Aβを脳内から除去する抗体を体内で作らせる治療法(ワクチン療法)の研究が進められ、2001年にElan社およびWyeth社により臨床試験が行われている。しかし、この臨床試験では一定の効果が認められたが、一部の患者でTリンパ球の活性化によると見られる副作用、髄膜脳炎が発症し、1名患者が死亡し、中止された1)。我々は国立長寿医療研究センターとアデノ随伴ウイルスを用いたワクチンを開発し、アルツハイマー病モデルマウスの認知障害に対するワクチンの効果について検討を行った。アデノ随伴ウイルスは病原性がない安全なものであり、他の疾患の遺伝子治療でも用いられている。このワクチンは
図1 ワクチンによるAβに対する抗体産生の機序

小腸の上皮細胞に感染しAβを長期に渡って産生する。腸管免疫はBリンパ球による抗体産生が主であるため、上記のような脳内へのTリンパ球の侵入による副作用を軽減できる(図1A)。アルツハイマー病モデルマウス(ヒト変異APP遺伝子過剰発現マウス; Tg2576マウス)では加齢に伴ってAβが脳内に蓄積し、学習機能が低下する(図2A)。このマウスに学習機能に低下が認められた時期(10ヶ月齢)にワクチンを投与すると3ヵ月後(13ヶ月齢)には学習機能が正常マウスと同レベルまで改善し(図2B)、脳内のAβ蓄積量が減少した(図1C)。さらに、我々はセンダイウイルスを用いた経鼻ワクチンを開発した3)。センダイウイルスベクターは細胞質型RNAベクターであり、細胞質内で自らのゲノムを複製して大量のタンパク質を産生する。そのため、従来のベクターと違い患者の染色体DNAにウイルスベクターが組み込まれる危険性を根本的に回避できる。また、本ワクチンはTリンパ球を抑制するIL-10を同時に発現するようにベクター設計したため、脳内へのTリンパ球の侵入による副作用を軽減できる(図1B)。Aβが脳内に著明に蓄積した時期(24ヵ月齢)のアルツハイマー病モデルマウスにワクチンを1滴経鼻投与すると、8週間後にはAβが減少していた(図1C)。また、学習機能の低下が進行した時期(12ヵ月齢)に経鼻投与すると、3ヵ月後(15ヶ月齢)には学習機能が正常マウスと同レベルまで改善した(図2C)。
図2 アルツハイマー病モデルマウスの加齢による学習機能の低下とワクチンの効果
アルツハイマー病モデルマウスでは加齢に伴いAβが蓄積し、どちらが新しい物体か分からなくなる(A)。このようなAβの蓄積と学習機能の低下はアデノ随伴ウイルスワクチン(B)およびセンダイウイルスワクチン(C) を投与することにより改善される。

 Aβによる免疫療法は上述のワクチン療法(能動免疫)以外に、抗体療法(受動免疫)が存在する。抗体療法ではワクチン療法で認められた髄膜脳炎が少なく、抗体が産生されにくい患者でも効果が期待できる。数多くの抗体が製薬会社によって作製されており、ファイザー社およびジョンソン&ジョンソン社のバピヌズマブはAβのN末端配列に対する、イーライリリー社のソラネズマブはAβの中間部に対する抗体である。両抗体共に、第V相試験まで治験は進められたが、認知機能低下に対して効果が認められなかった。ソラネズマブについては複数の第3相試験の結果をまとめた2次解析では、軽度から中等度AD患者全体の認知機能低下に対して効果が認められ、新たな第V相追加試験が実施されている(平成25年5月現在)。現在、アルツハイマー病の原因として、解剖学的特徴である老人班の主成分である不溶性の線維状の重合構造のAβよりも,可溶性Aβが重合したオリゴマー体(Aβオリゴマー)がシナプスの機能異常をひき起こす(図3A)。国立長寿医療研究センターとAβオリゴマーに特異的な抗体を作製し、アルツハイマー病モデルマウスの認知障害に対する抗体の効果について検討を行った4)。アルツハイマー病モデルマウスに学習機能が正常な時期(4ヵ月齢)から週1回ずつ計36週にわたり投与すると、学習障害が認められる時期(13ヶ月齢)でも正常マウスと同レベルの学習機能が保たれていた(図3B)。標的とするAβの特徴によって効果や副作用に違いが認められ、Aβオリゴマーに対する抗体療法が新しい治療法として注目される。これらワクチン療法および抗体療法は安全でかつ有効な薬物である可能性が高く、臨床応用される事が期待される。
図3 Aβオリゴマーによる神経毒性とアルツハイマー病モデルマウスの学習機能の低下に対するAβオリゴマーに対する抗体療法の効果
老人班の主成分である不溶性の線維状の重合構造のAβ(Aβプラーク)よりも、可溶性Aβが重合したオリゴマー体(Aβオリゴマー)の方がより強い神経細胞毒性を持ち、学習機能の低下を惹き起こすことが報告されている(A)。Aβオリゴマーに対する抗体の連続投与はアルツハイマー病モデルマウスに認められる学習機能の低下の発現を抑制する(B)。


【文 献】
1) Orgogozo JM, Gilman S, Dartigues JF, Laurent B, Puel M, Kirby LC, Jouanny P, Dubois B, Eisner L, Flitman S, Michel BF, Boada M, Frank A, and Hock C. (2003) Subacute meningoencephalitis in a subset of patients with AD after Aβ42 immunization. Neurology 61, 46-54
2) Mouri A, Noda Y, Hara H, Mizoguchi H, Tabira T, Nabeshima T. (2007) Oral vaccination with a viral vector containing Aβ cDNA attenuates age-related Aβ accumulation and memory deficits without causing inflammation in a mouse Alzheimer model. FASEB J 21, 2135-48.
3) Hara H, Mouri A, Yonemitsu Y, Nabeshima T, Tabira T. (2011) Mucosal immunotherapy in an Alzheimer mouse model by recombinant Sendai virus vector carrying Aβ1-43/IL-10 cDNA. Vaccine 29, 7474-82.
4) Takamura A, Okamoto Y, Kawarabayashi T, Yokoseki T, Shibata M, Mouri A, Nabeshima T, Sun H, Abe K, Urisu T, Yamamoto N, Shoji M, Yanagisawa K, Michikawa M, Matsubara E. (2011) Extracellular and intraneuronal HMW-AbetaOs represent a molecular basis of memory loss in Alzheimer's disease model mouse. Mol Neurodegener 6, 20.