日本神経精神薬理学会
ホーム 入会案内 会員ログイン お問い合わせ

日本神経精神薬理学会

〒112-0012
東京都文京区大塚5-3-13
学会支援機構内
TEL:03-5981-6011
FAX:03-5981-6012
jsnp@asas-mail.jp

NeuropsychoTRENDS

≪元のページに戻る
ストレス脆弱性とストレス・レジリエンス
−逃避不能ストレス負荷による神経細胞死の誘導等に関する基礎研究−
2013.5
丹生谷正史
防衛医科大学校・精神科
清水邦夫
防衛医科大学校・行動科学
野村総一郎
防衛医科大学校・精神科

 うつ病や外傷性ストレス障害(PTSD)を含むストレス関連疾患は、脳組織の可塑性に影響を及ぼす。この事実の確立にあたっては、画像解析を中心とする臨床研究と、分子生物学的手法を使った動物実験の両者が等しく貢献した。特定脳部位の萎縮がストレス関連疾患で観察される場合、細胞レベルで考えると、死に至っている神経細胞が増えているか、神経新生が滞っているかを想定するのが自然である。神経新生の知見と比較すると、神経細胞死あるいは脆弱性に関する基礎研究は精神薬理学の分野では乏しいのが現状である。

 細胞死の中でもapoptosisを誘導しえる機構として、小胞体ストレスがある。我々のグループでは、急性の不可避足下電撃刺激によって、あるいは薬理学的セロトニン負荷(セロトニン前駆物質とMAO阻害薬の併用)によって顕著にX-box binding protein-1(XBP-1)スプライシングが亢進することを確認した。これはセロトニン拮抗薬であるケタンセリン前処置によって部分的に抑制されるが、リチウム前投与によっては抑制されなかった。急性の逃避不能ストレスにおいて、すでに細胞死機構へとつながり得る信号伝達系が作動し始めている可能性が示唆された。ただ、小胞体ストレス系は初期段階で、細胞内のストレスを収束に向かわせる作用を有するため、どこまでが抵抗力resilienceに関与し、どこからが脆弱性vulnerabilityと関連するかは現段階で不明である。今回発見した現象の背後には、不可避ストレスではセロトニン系神経伝達の持続的な亢進のおこることが関与していると考えている。

 これらの流れを踏まえ、防衛医科大学校精神科学教室と防衛医学研究センター行動科学研究部門では、共同して臨床医学に資する基礎的ストレス研究を継続している。対象疾患としてはうつ病やストレス性障害を想定しており、これまでに1)動物モデルを使用したPTSDに関する研究、2)ストレスによる脳内アポトーシス関連蛋白発現変動の研究、3)抗うつ薬・電気けいれんショック・経頭蓋高頻度磁気刺激等のもつ抗ストレス作用の研究等を発表している。現在新たな視点として、ストレスや抗うつ薬等による脳内オートファジー経路の変動にも注目している。ただ、ストレスと一括してそれが脳内神経にすべて負に作用するわけではなく、脳内可塑性、脆弱性、ストレス耐性等が有機的に組み合わされて、個々人の中で時にプラスに時にマイナスに作用し、これが総体されるものであるとの認識で研究に取り組んでいる。数年前の総論の一説を下記に引用しておくので、参照されたい。

We wish to establish the concept in future that stress is essential for resilient brain development and that even stress induced hippocampal impairment might help people succeed when living difficult lives. Most chemical components related to stress neuroscience display biphasic and bidirectional characteristics. The study of stress needs to employ ambivalent way of thinking that stress is both good and bad at the same time for the development of healthy mental lives. We have to consider how learning disabilities can sometimes help people and how amnestic process can cure them from stress induced uncontrollable situations.