日本神経精神薬理学会
ホーム 入会案内 会員ログイン お問い合わせ

日本神経精神薬理学会

〒112-0012
東京都文京区大塚5-3-13
学会支援機構内
TEL:03-5981-6011
FAX:03-5981-6012
jsnp@asas-mail.jp

NeuropsychoTRENDS

≪元のページに戻る
ストレスと不安障害:5-HT神経系の関与を中心に
2008.1
武田弘志、辻 稔
国際医療福祉大学薬学部薬理学分野

不安の発現や不安障害を含むストレス性精神疾患の病態生理に、脳内セロトニン(5-HT)神経系が深く関与していることは周知されている。不安の発現機構における5-HT神経系の役割が注目され始めたのは1970年代である。当初は、不安の発現には5-HT神経系の活性化が関与し、5-HT神経機能を抑制することにより不安が減弱するとの仮説が提唱されていた。この仮説は、ストレス刺激の負荷で5-HT神経系を活性化させることにより不安が誘発されることや、5-HT神経の自己受容体(5-HT1A受容体)を刺激して5-HT神経活性を抑制することにより抗不安効果が発現するなどの、基礎医学研究の結果に基づいたものであった。したがって、臨床における不安障害の薬物治療のメカニズムに関しても、5-HT神経活性の抑制が重要であるとの考え方が主流であった。しかし、その後の臨床医学研究の累積の結果、この仮説の大きな矛盾点が浮き彫りにされた。すなわち、5-HT神経伝達を亢進させる抗うつ薬(三環系抗うつ薬や選択的5-HT再取り込み阻害薬(SSRI)など)が、うつ病のみならず不安障害にも有効であることが明らかとなり、本邦でも、複数のSSRIが強迫性障害、パニック障害あるいは社会不安障害の適応となったことである。これらの事実は、不安障害の発症には、従来考えられていた脳内5-HT神経伝達の亢進よりもむしろ減弱が関与しており、5-HT神経機能の維持や促進が不安障害の治療に重要であることを示唆する。実際、近年では、ストレス刺激の負荷が、5-HT神経機能に様々な障害をもたらすことが数多く報告されている。また、不安障害患者における5-HT神経機能の減弱や、不安障害に有効な抗うつ薬の神経保護ならびに神経新生作用に主眼をおいた研究も精力的になされている1,2)。今後5-HT神経の機能維持あるいは促進に寄与している新たな脳内分子を検索していくことが、不安障害の病態解明や新規治療薬開発の一助になると考えられる。

【文献】
1) Maron E, Shlik J (2006) Serotonin function in panic disorder: Important, but why? Neuropsychopharmacology 31, 1-11.
2) Martinowich K, Manji H, Lu B (2007) New insights into BDNF function in depression and anxiety. Nat Neurosci 10, 1089-1093.