日本神経精神薬理学会
ホーム 入会案内 会員ログイン お問い合わせ

日本神経精神薬理学会

〒112-0012
東京都文京区大塚5-3-13
学会支援機構内
TEL:03-5981-6011
FAX:03-5981-6012
jsnp@asas-mail.jp

NeuropsychoTRENDS

≪元のページに戻る
Genomic Imaging
2013.4
野村理朗
京都大学 大学院教育学研究科

 ヒト脳機能イメージングは、行動科学において洗練されてきた方法論を援用し、精神と、その基盤となる脳機構との関連性を解明する有力な手法である。その方法論は研究目的に応じて多様化しているが、本トピックスでは、BOLD(blood oxygen level dependent)の原理に基づき脳内の血流量をシグナルとして捉える機能的核磁気共鳴法(fMRI: functional magnetic resonance imaging)より得られた知見を紹介する。

 セロトニン神経系の機能は、不安や抑うつ、あるいは衝動性と関連するとことが広く知られている。Haririら(2002)は、セロトニン・トランスポーター(serotonin transporter)遺伝子多型の対立遺伝子である転写活性の低いS 型と高いL型に着目し、脳機能イメージングにより、同遺伝子多型の脳活動への影響について検討した。実験では、L/L型とS/S型の各々被験者に対し、「怒り」あるいは「恐怖」表情の照合課題(画面に提示された表情と一致する表情を、その下方にある二つの表情から選択する)中の脳血流量の変化を計測した。その結果、扁桃体の活動は、L/L型と比較して、S/S型において有意に増加することが見いだされた。S/S型は不安や抑うつ傾向などと関連することが指摘されており、セロトニン・トランスポーター遺伝子多型によって異なる、ネガティブな外界の刺激に対する扁桃体の感受性が、こうした感情疾患と関連する可能性が示されたのである。この知見は脳機能イメージングの利用により精神と脳機能、および遺伝子多型性の関連について検証をするジェノミック・イメージング(genomic imaging)の代表的な契機となり、以来、国際的規模での急速な研究の進展に結びついている。

 さらに上述したS/S型は、L/L型と比較して、ライフ・ストレスに対する抑うつ罹患率が高いのではないかと言われているが、S/S型の左扁桃体はライフ・ストレスの高い個人であるほどその活動は低下をし、逆に、L/L型においてはその活動が上昇するという、同多型とストレスの強度の脳活動への相互作用も明らかとなった(Canli et al., 2006)。左扁桃体はネガティブな思考の反すう時に活性化をするという、抑うつ罹患率との関連性が指摘されている部位であり、同領域の活動を指標として、遺伝子多型のタイプと環境因の影響を予測することができよう。こうしたジェノミック・イメージング研究は、「氏か育ちか」という精神の有りようの根幹にかかわる問いへの洞察を深める、強力な研究アプローチになるものと考えられる。

【文 献】
1) Canli, T., Qiu, M., Omura, K., Congdon, E., Haas, B. W., Amin, Z., Herrmann, M. J., Constable, R. T., & Lesch, K. P. (2006). Neural correlates of epigenesis. Proc Natl Acad Sci U S A, 103, 16033-16038.
2) Hariri, A. R., Mattay, V. S., Tessitore, A., Kolachana, B., Fera, F., Goldman, D., Egan, M. F., & Weinberger, D.R. (2002). Serotonin transporter genetic variation and the response of the human amygdala. Science, 297, 400-403.