学会について

学会について

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理事長 江川 裕人

 2年目の新年を迎えました。昨年は、安心安全な移植医療の高いレベルの標準化と人材育成をビジョンに、それを裏打ちする戦略に取り組みました。関連学会と共同でのガイドライン作成や、免疫抑制療法の適応拡大と新規手術技術と新規検査の保険承認への仕掛けもおわりました。学術的にはDSA克服のため、学会主導で腎移植におけるリツキサン治験の準備を進めるとともに、全臓器への承認を目指し、平行して他臓器での臨床研究と全臓器でのガイドライン作成も計画しています。この計画はこれで終わることなく、補体抑制による治療も視野にいれ10年計画でDSA克服のための指針を世界に示したいと考えています。国際的活動として、WHOの国際統計への登録業務を国際戦略委員会の業務として取り組むようにしましたし、日本の登録システムがアジアの登録システムの基盤となるようにアジア諸国に働きかけています。2017年2月の日本臨床腎移植学会期間中にアジア諸国のリーダーをお招きして登録事業に関する合意形成のための会議を本学会が主催します。このような活動はこの理事会の任期中で終わることなく継続していくもので、そのためには人材が必要です。人材育成では、次世代リーダーセミナーを継続するとともに、新たに当学会幹事クラスのnew key opinion leader (nKOL) meetingを始動しました。また、臓器提供が増加した状況で移植医の過労死を防ぐための環境整備が喫緊の課題です。そこで、行政とJOTと緊密に連携しながら課題に取り組むために、各臓器領域から現場を知り行動力とリーダーシップを備えたよりすぐりのメンバーで「脳死・心停止移植環境整備委員会」を立ち上げ2016年末にJOT 本部で活動を開始しました。メンバーの方々には日頃の臨床と学術活動で多忙ななか相当な負担をおかけしますが、この活動は移植医の労働環境を改善しひいては患者さんへの福音となるばかりでなく、この活動を通じてそれぞれのメンバーがオールジャパンさらにグローバルな視野や考え方を涵養し、世界に誇る移植医に育たれると信じています。

 これらの活動に注力した分、臓器提供推進についてはやや活動が少なかったことは否めません。その間、臓器提供のために本学会の立ち位置、なすべきことについて、理事長として考える機会が三つありました。一つ目は日本脳神経外科救急学会での脳死臓器提供に関するセッションに招かれ直接忌憚のないご意見を聞かせていただくとともに講演のなかで移植医としての思いを伝えることができたこと、二つ目は、同志社大学商学部瓜生原葉子先生のMUSUBI: awareness for organ donation活動に参加したこと、三つ目はTPMの25周年記念式典と同時に開催されたinternational advanced courseに参加したことです。一つ目の機会に集中治療・救急・脳外科の現場に臓器提供について積極的な機運が生まれていることを知り、二つ目の機会に一般啓発活動における戦略の立て方を学び、三つ目の機会に移植医療を支える社会の在り方を知ることができました。特に、TPMの講師や講習生と話をしていて、家族を失った遺族への同情や悲しみの共感は日本人以上であり、それは当然のこととして、「他者を生かすdonationは善」であり「自分たちはドナーが人助けをするのを手伝う」という使命感と幸福感であふれていることに気が付きました。25周年記念式典では、世界から集った講師や卒業生たちがハグしてキスをして喜びを分かち合っていました。まさに同じ志をもった”Family” です。ワークショップで学ぶ様々なスキルも重要ではありますが、TPMが伝えたい真理はこのHospitalityだと感じました。主催者のMartiにこの感想を話すと「わかってくれた?そう、ハートなんだよ。」と喜んでいました。今の日本での議論は、インセンティブだの負担軽減だの強制報告制度導入だのに終始しています。増えた仕事に対する対価や効率化のための業務の軽減はシステム維持として当然のことであり、本学会が、アカデミアとして、集中治療、救急、脳外科の先生や5類型病院に働きかけるべきことは、多忙な業務のなかで臓器不全患者に思いを馳せ移植医療のパートナーになっていただけるように、誠意を持って臓器移植の正しい知識を提供していくことです。これが”awareness”です。そして、キーワードは共感(sympathy)です。それには、集中治療、救急、脳外科の先生に移植医療の喜びを共感していただくだけでなく、私たちも臓器提供の現場の悲しみを共感することが必要です。そのためには、一般普及啓発だけでなく集中治療、救急、脳外科関連学会に出向いて積極的に働きかけていくだけでなく、移植医側の関連学会に招いて積極的に彼らの声に耳を傾ける必要があります。

 2017年が、国民が健やかにすごし医療界にとって実りある年になりますよう、本学会の皆さまと力を合わせ全力を尽くしたいと思います。

2017年1月