1.概 況
- 腎臓は生命維持の点から非常に重要な臓器であり、腎機能が何らかの病因で完全に廃絶し、生命維持が困難な病態が末期腎不全です。末期腎不全の治療法として、透析療法(血液透析・腹膜透析)と腎臓移植の2種類があります。
- しかし、透析療法は生体内に蓄積された尿毒素ならびに水分を体外に除去することは可能なものの、造血・骨代謝・血圧調整などに関連した内分泌作用を補うことは現在の医療技術では不可能です。このことが透析療法に伴う合併症発現の原因となり、透析患者の生活の質を低下させています。
- 一方、腎臓移植は代替療法として理想的な治療であり、少量の免疫抑制剤の継続的服用以外は、健常者と同様の生活が送れます。
- 腎臓移植には、生体腎移植と死体腎移植(献腎移植ともいう)があり、死体腎移植には心停止下腎移植と脳死下腎移植(脳死移植)があります。生体腎移植では、腎提供者(ドナー)から摘出できる腎は1つであり、1人の末期腎不全患者が腎移植を受けられますが、死体腎移植では、1人のドナーから2つの腎臓が提供されれば、2人の末期腎不全患者が移植を受けることができます。わが国では、死体腎移植が少ないために生体腎移植が多く、そのほとんどが親子間での移植です。しかし、最近では夫婦間の生体腎移植も増加してきています。
- 腎移植が肝移植あるいは心移植と大きく異なる点は、脳死下での摘出以外に心停止下で摘出した腎臓でも移植が可能な事で、実際に献腎移植のほとんどが心停止下腎移植です。さらに臓器の保存時間も肝臓、心臓に比較して長く、摘出後48時間まで移植が可能とされています。ただし、保存時間(搬送時間も含む)が短い方が移植後の腎機能は良好です。最近の報告では全阻血時間が35時間を境にして、移植された腎臓の生着率に差が認められています。
- 摘出された腎臓は移植者(レシピエント)の左右いずれかの下腹部(腸骨窩)へ収納し、腎動脈は内腸骨動脈あるいは外腸骨動脈と、また腎静脈は外腸骨静脈へそれぞれ吻合し、さらに尿管は膀胱へ吻合します。
2.適 応
- 基本的には、全ての末期腎不全の患者が腎臓移植のレシピエントとなり得ますが、活動性の感染症、あるいは進行性の悪性腫瘍を合併している場合は、対象外となります。
これまではドナー側にC型肝炎が認められる場合、移植はできませんでしたが、最近ではレシピエント側にもC型肝炎がある場合にのみ、移植が可能となっています。
3.年間移植件数
- 国内での腎臓移植件数を表1に示します。2005年の一年間で、生体腎移植は834例(83.9%)、死体腎移植(心停止下)144例(14.5%)、脳死腎移植16例(1.6%)と、合計994例が施行されています(日本移植学会、日本臨床腎移植学会、太田医学研究所統計報告より)。
2004年の移植件数が生体腎移植730例、死体腎移植167例、脳死腎移植6例、合計903例であったのに比べると、合計では91例多くなっていますが、その要因は生体腎移植の増加によるもので、死体腎移植と脳死腎移植の合計では13例減少しています。しかし、脳死腎移植数が10例増加していることは注目に値します。
腎移植レシピエントの年齢は、生体腎移植の平均が38.6歳で30歳代にピークがみられています。一方、死体腎移植レシピエントの平均年齢は46.2歳で50歳代にピークがみられており、生体腎移植レシピエントに比較して高齢となっています。この傾向はここ数年同じです。生体腎移植と死体腎移植の合計では30歳代がもっとも多く、26.8%を占めています。10歳未満への腎移植数は生体腎移植が26例で、死体腎移植と合わせても29例(2.9%)と非常に少ないのが現状です。
■表1. 2005年の腎移植実施症例数
| |
件数
|
| 生体腎移植 |
834(83.9%)
|
| 死体腎移植 |
144(14.5%)
|
| 脳死腎移植 |
16(1.6%)
|
|
計 994(100.0%)
|
4.移植数の推移(表2)
- 2005年の腎移植数は994例で、過去もっとも多かった前年の903例より91例増えています(表2)。1989年より減少傾向にあった腎移植の総数は、3〜4年前から増加していますが、その最大の要因は生体腎移植数の増加であり、死体腎移植数は逆に減少しているのが現状です。生体腎移植数が増加した原因としては、死体腎移植を希望して登録していても提供者が少なく、生体腎移植に踏み切るケースが多いことが挙げられます。最近では、夫婦間など非血縁間での腎移植も増えています。
■表2. 年次別腎移植患者数
| 年 |
〜70 |
71 |
72 |
73 |
74 |
75 |
76 |
77 |
78 |
79 |
80 |
81 |
82 |
83 |
84 |
85 |
86
|
87 |
| 生体腎移植 |
137 |
38 |
37 |
82 |
117 |
131 |
133 |
170 |
221 |
176 |
236 |
242 |
249 |
339 |
405 |
417 |
470 |
549 |
| 死体腎移植(心停止下) |
37 |
4 |
4 |
4 |
8 |
4 |
22 |
27 |
36 |
51 |
49 |
118 |
154 |
191 |
159 |
143 |
174 |
163 |
|
計
|
174 |
42 |
41 |
86 |
125 |
135 |
155 |
197 |
257 |
227 |
285 |
360 |
403 |
530 |
564 |
560 |
644 |
712 |
| 年 |
88 |
89 |
90 |
91 |
92 |
93 |
94 |
95 |
96 |
97 |
98 |
99 |
0 |
01 |
02 |
03
|
04 |
05 |
| 生体腎移植 |
534 |
547 |
551 |
463 |
402 |
323 |
399 |
432 |
453 |
437 |
510 |
566 |
600 |
554 |
634
|
728 |
727 |
834 |
| 死体腎移植(心停止下) |
198 |
261 |
220 |
234 |
207 |
197 |
199 |
172 |
186 |
159 |
149 |
150 |
139 |
135 |
112
|
134 |
167 |
144 |
| 脳死腎移植 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
8 |
7 |
16 |
10
|
4 |
6 |
16 |
|
計
|
732 |
808 |
771 |
697 |
609 |
520 |
598 |
604 |
639 |
596 |
659 |
724 |
746 |
705 |
756 |
866 |
900 |
994 |
注:移植日時で移植数とする
5.移植数別移植施設数
- 2005年に腎臓移植を施行した施設は121施設ですが、年間1〜4例施行している施設が60施設(49.6%)と過半数以上を占める一方で、20例以上施行した施設は13施設のみであるにもかかわらず、その施設における移植件数は458例(46.1%)となっています。つまり、少ない施設で集中して移植手術が行われていることになります(表3)。
■表3. 2005年の移植数別施設数
|
年間移植数区分
|
施設数
|
該当施設での移植件数
|
|
1〜4例
|
60(49.6%)
|
140(14.1%)
|
|
5〜9例
|
34(28.1%)
|
216(21.7%)
|
|
10〜19例
|
14(11.6%)
|
180(18.1%)
|
|
20例以上
|
13(10.7%)
|
458(46.1%)
|
|
計
|
121(100.0%)
|
994(100.0%)
|
6.移植待機者数(図1)
- 2005年末現在257,765人(日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況(2005年12月31日現在)」)が透析療法を受けており、毎年増加傾向にあります(図1)。透析患者のうち11,564人(2006年8月31日現在)が死体腎移植を希望して日本臓器移植ネットワークに登録されています。ただ、問題点は死体腎移植数が少なく、昨年は待機者に対して160例行われたのみであり、また待機日数の長い高齢者の割合が多くなってきていることです。
■図1. わが国の透析患者、移植登録患者および移植件数の推移

7.待機(登録)中の死亡者数
- 末期腎不全に対する治療法は、腎移植のみでなく透析療法があるため、腎不全自体で死亡することはほとんどありません。透析療法中の末期腎不全患者の死亡原因は、循環器障害、脳循環障害を中心とした透析療法による合併症、特に長期透析による合併症がその主なものとなっています。
- 腎移植を希望して臓器移植ネットワークに登録されている待機患者は11,564人ですが(2006年8月31日現在)、腎移植を希望しながら合併症で死亡した患者数は1,941人(ネットワーク登録開始1995年以降2006年7月までの累積数)となっています。
8.移植成績
- 移植成績については、2001年までに施行された腎移植のうち追跡可能であった症例について2003年に調査が行われ、2005年に解析結果が発表されています(日本移植学会、腎移植臨床研究会、太田医学研究所の報告より)。
- 腎臓移植では心臓移植などと異なり、腎移植後の拒絶反応などにより移植した腎臓が生着しない場合でも、再び透析療法にもどることにより生命維持が可能なので、移植した腎臓が「機能している期間」を示す生着率と、移植手術後患者さんが「生存している期間」を示す生存率を区別して用います。
- 生存率:12,350例(生体腎移植8,978例、死体腎移植3,372例)について生存率を調査しています。生体腎移植では生存率が1年95%、5年90%、10年84%、15年78%です。また、死体腎移植では生存率が1年91%、5年84%、10年77%、15年71%です(図2)
- 生着率:生着率に関しては、1983年に優れた免疫抑制剤であるシクロスポリンが使用できるようになって成績が向上し、さらに1992年にはタクロリムスが登場しました。年代別では、これらの年を境にして3期に分けた移植成績が報告されています。
@全症例(12,208例〔生体腎移植8,880例、死体腎移植3,328例〕)の調査(図3)
生体腎移植:1年生着率90.2%、5年75.3%、10年57.5%、15年44.4%
死体腎移植:1年生着率78.9%、5年60.6%、10年44.5%、15年33.3%
A年代別の調査
・生体腎移植(図4)
1982年まで:総例数=1,369、1年生着率74.1%、5年54.9%、10年41.9%、15年34.2%
1983〜91年:総例数=3,622、1年生着率91.7%、5年75.2%、10年55.6%、15年41.9%
1992〜01年:総例数=3,889、1年生着率94.4%、5年83.4%、10年69.6%
・死体腎移植(図5)
1982年まで:総例数=330、1年生着率47.4%、5年28.6%、10年17.6%、15年12.0%
1983〜91年:総例数=1,478、1年生着率79.0%、5年59.2%、10年42.8%、15年32.3%
1992〜01年:総例数=1,520、1年生着率85.7%、5年69.2%、10年54.3%


- 移植成績はHLA(組織適合性)の合ったドナー、レシピエントの組み合わせの一致率が高いほど生着率が良く、そうでない組み合わせでの生着率は悪い傾向にあります。HLAは血液型と同様に両親から受け継がれる性質で、移植された臓器が拒絶されるか否かに影響します。通常は6種類のHLA(A:2種類、B:2種類、DR:2種類)について、一致する数が最大となるようにドナー、レシピエントの組み合わせを選びますが、特にDRの適合を重視します。生体腎移植でDR、A、Bの全てが一致した場合の生着率は1年96%、5年86%、10年71%、15年59%(総例数=710)ですが、DRが2種類とも一致しなかった場合の生着率は1年93%、5年81%、10年58%、15年46%(総例数=296)と成績が低下してきます。死体腎移植においても同様で、DR、A、Bの全てが一致した場合の生体腎移植の生着率は1年87%、5年74%、10年62%、15年43%(総例数=315)ですが、DRが2種類とも一致しなかった場合の生着率は、1年73%、5年52%、10年33%、15年26%(総例数=204)と成績が低下してきます。したがって、HLAの一致度は腎移植の生着率に重要な因子の一つとなっていますが、前述したように新しい免疫抑制剤の開発、医療技術の向上などによって、生着率の差は小さくなりつつあります。
9.費 用
- 移植費用は、(ア)国内で腎臓移植を行う場合、(イ)外国で同国人を対象に腎臓移植を行う場合、(ウ)日本人が外国で腎臓移植を受ける場合、の3つについて示します(表4)。
- ここで示した移植費用は、移植手術後1年間の総医療費(手術、入院、退院後の投薬・検査など)、および外国で移植手術を受ける場合には渡航費用を含めた費用を指します。国内での腎移植は、多くの場合、医療保険の他、自己負担分は特定疾病療養制度、更正医療、小児慢性特定疾病治療研究事業、育成医療や重度障害者医療費助成制度の対象となるため、医療費に関してはほとんど負担がありません。
- 外国で受ける場合の費用は、どこの国で受けるか、また待機期間の長短により大きく変わりますが、患者の負担は極めて大きいのが現状です。
■表4. 国内外での腎臓移植にかかる費用
|
|
費 用
|
備 考
|
| 国内での腎臓移植 |
350〜400万円
|
健康保険が適用される
|
日本人が外国へ出向いて
受ける腎臓移植 |
およそ1,600万円(800〜4,650万円)
|
米国の例
|
※米国以外での腎臓移植に関する費用は、公式な報告がなくほとんど不明です。
10.死体腎移植におけるレシピエント選択基準
- 死体腎移植(心停止下、脳死下)において、腎提供の申し出があった場合は日本臓器移植ネットワークに登録されている腎移植希望者の中から、定められたルール(レシピエント選択基準)に基づいてレシピエントが選択されます。
- 2002年1月よりレシピエントの選択基準が変更になりました。以前は、組織適合性(HLA)を重視してレシピエントの選択を決定してきましたが、血液型、臓器の搬送時間(阻血時間)、組織適合性、待機日数などを総合的に評価して決定されるようになりました。さらに、小児(16歳未満)の待機患者については優先的に選択されるような選択基準となりました(小児期の腎不全は発育成長に重大な影響を与えるため)。
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