移植ことば辞典

た行
単純ヘルペスウイルス
DNAウイルスのヘルペスウイルス科に属するウイルスで、1型(HSV-1)、2型(HSV-2)があります。皮膚や粘膜からヒトに感染します。HSV-1は主に口唇、口腔内に丘疹、潰瘍を形成し、ときに角膜炎、脳炎も発症します。三叉神経節に潜伏感染します。HSV-2は性器に丘疹、潰瘍を形成し、仙随脊髄神経節に潜伏感染します。ヘルペス髄膜炎や脊髄炎の原因ともなります。治療にはアシクロビルが有効です。宿主の免疫能低下により日和見感染を繰り返します。
帯状疱疹
免疫低下状態となった宿主の神経節に潜伏する水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化により発症する帯状の疱疹で、通常一側一神経領域に発症します。重症例ではアシクロビルの静脈内投与が有効です。ときに、電撃性の経過をとる場合もあり、移植患者では抗ウイルス薬の投与とともに、免疫抑制薬の調整も重要です。多くは1週間ほどで発疹は痂皮(かひ)※化しますが、神経痛が残る場合もあります。※痂皮:かさぶたのこと。
耐糖能異常
血糖値を正常に保つための、グルコース(ブドウ糖)の処理能力に異常があること。グルコースは小腸から吸収され、体内で主要なエネルギー源として利用されます。しかし、高濃度のグルコースは生体に有害であるため、血糖を下げるホルモンであるインスリンにより、血糖値は常に一定範囲に保たれます。体内のインスリンが十分に機能しないと血糖のコントロールができなくなり、糖尿病に発展し、重症な場合は意識障害など様々な症状が現れます。
脱感作療法
一般には、アレルギーなどの免疫反応に対する症状を軽減させる目的で抗原(アレルゲン)を体内に継続的に取り入れてアレルギーを抑制する治療法のことをさします。移植医療においてはレシピエントが提供された臓器を移植した時に拒絶反応が予想される場合に、移植前から免疫抑制薬や血漿交換などにより抗体の産生を抑制して拒絶反応が起こることを予防する治療法のことをさします。
多発性嚢胞腎
多発性嚢胞腎とは、両側の腎臓にできた多発性の嚢胞(液体が詰まった袋)が徐々に大きくなり、進行性に腎機能が低下する先天性腎疾患です。多くは常染色体優性遺伝(親から子へ50%の確率で遺伝)ですが、一部に劣性遺伝があります。30~40歳代まで無症状で経過することが多いですが、腹痛、発熱、血尿などで発症し、その多くは慢性腎不全に陥り、腎移植の適応となります。併存症として、高血圧、頭蓋内動脈瘤、その他の臓器(肝臓・膵臓など)の嚢胞が知られています。
蛋白尿
腎臓は糸球体という濾過装置によって老廃物(尿毒素)を排泄しており、体内に必要な血液内の蛋白質などは排泄されません。糸球体が障害されると、蛋白質や赤血球が尿内に排泄されるようになり、これをそれぞれ蛋白尿、血尿といいます。蛋白尿、血尿は腎臓が障害を受けている指標であり、特に蛋白尿が長く持続していると、徐々に腎機能が低下していく可能性が高いです。大量の蛋白尿を認める状態をネフローゼ症候群といい、さらに高度な腎障害があるといえます。
中性脂肪
中性脂肪は、脂質や体脂肪の大部分を占め、エネルギー源や保温効果などを有し、糖質・脂質の食べ過ぎやお酒の飲み過ぎ、運動不足で高値となります。肝臓でも合成され、糖質やアルコールの過剰摂取でも増加します。動脈硬化の原因になり、心・脳血管系疾患を引き起こすだけでなく、肝臓に過剰に蓄積すると脂肪肝となり、慢性化した場合、肝硬変へと進行する恐れもあります。中性脂肪を下げるには、脂質・糖質を控えめにした食事と適度な運動が必要です。
低カリウム血症
低カリウム血症とは血中カリウム濃度が低値となる電解質異常症です。その症状には、筋力や神経機能低下、腸管麻痺、痙攣などがあり、持続する場合、腎尿濃縮能の障害から二次性多飲を伴う多尿症が生じます。原因は、腎臓からの過剰排泄または下痢や長期間の緩下剤による消化管からの過剰排泄か、あるいは摂取不足でも起こります。原疾患に鉱質コルチコイドなどのホルモン異常をきたす疾患があります。治療は原疾患の治療と適切なカリウムの補充です。
カリウムの基準範囲:3.6~4.8mmol/L
低カルシウム血症
低カルシウム血症とは、血液中のカルシウム濃度が非常に低い状態をいいます。副甲状腺機能が低下した状態、食事(カルシウム/マグネシウム不足、ビタミンD欠乏)、腎機能障害、膵炎、特定の薬剤が原因で発生します。強い痛みをともなう筋肉のけいれん、こわばり、唇、指、足のチクチク感、不整脈、錯乱、抑うつ、原因不明の認知症などの症状が現れます。血液検査で発見できます。治療には、カルシウムとビタミンDの補充があり、低カルシウム血症を引き起こしている病気の治療も行います。
カルシウムの基準範囲:8.8~10.1mg/dL
低ナトリウム血症
ナトリウム(Na)は塩分などとして経口や輸液により体に入り、尿や汗などで排出されますが、血液中のNa濃度は腎臓の働きにより135~145mEq/lに保たれています。何らかの原因により水の調節機能が正常に働かず、135(mEq/l)未満になると低Na血症になります。ナトリウム欠乏の場合と水過剰の場合があります。Na濃度が130 (mEq/l)以下になると虚脱感や疲労感、精神錯乱、頭痛、悪心、食思不振、痙攣、昏睡を起こします。治療は原因により塩化ナトリウムの補充や水制限を行います。
低リン血症
血清リン(PO4)濃度(正常:2.7~4.6mg/dl)が正常以下になること。原因にはアルコール依存症、熱傷、飢餓や利尿薬の使用、腎臓でのPO4再吸収の低下があります。症状としては筋力低下、呼吸不全、心不全があり、痙攣や昏睡が起こることもあります。細胞膜はリン脂質からなるので、あまりに血清リン濃度が低くなると細胞が壊れ、溶血(赤血球が壊れる)が起きることもあります。腎移植直後は移植腎からリンが大量に排泄されるために低リン血症になることが多いです。治療としてはリンの補給を行います。
鉄飽和度
成人の体内にある鉄は3g程度で、そのうちの約70%が血液中の赤血球のヘモグロビンに組み込まれ酸素の運搬に役立っており、また、約25%はフェリチンという蛋白に結合して貯蔵鉄として肝臓や脾臓に蓄積されています。一方、血液中の血清に含まれる鉄(血清鉄)はそのほとんどがトランスフェリンという蛋白に結合しており、血清中のトランスフェリン濃度は総鉄結合能(TIBC)で示されることから、鉄飽和度(%)=(血清鉄 / TIBC) x 100で算出されます。鉄欠乏性貧血では、血清鉄低値、TIBC上昇にて鉄飽和度は低下し、同時に血清フェリチンも低値を示します。血清鉄が低値でもTIBCも低値、血清フェリチンが高値の場合は、鉄利用がうまくいかない状態であり、炎症や悪性腫瘍などを疑います。
ドナー
臓器を提供する人をドナーといいます。生きている人より臓器を提供する場合と死亡した人より臓器を提供する場合があり、前者を生体ドナー、後者は2つあり心停止下ドナーと脳死下ドナーに分かれます。生体ドナーは限定された親族に限られ、また心停止下・脳死下ドナーは生前の意志表示か家族の承諾が必要となります。また、ある種の感染症や悪性腫瘍がある場合もドナーになることはできません。現在、日本では心停止下・脳死下ドナーが極めて少ないのが現状です。
トラフ値
免疫抑制薬などを反復投与したときの安定した状態における、血液中の薬の濃度の最低値のこと。薬の血中濃度は、吸収後に最高値となり、時間の経過とともに代謝・排泄によって一定の速度で減少します。従って薬投与直前の値が最低となり、この値をトラフ値といいます。トラフ値は、血中濃度の変動の小さい時点での値であり、薬の血中濃度のモニタリングに適しています。副作用の発現防止の指標としても用いられます。
ドナー特異性抗体(DSA)
ドナー特異的抗HLA抗体(donor specific anti-HLA antibodies:DSA)ともいわれ、ドナーのHLAに特異的に反応する抗体のこと。腎移植時にDSAがあると急性抗体関連型拒絶反応という激烈な拒絶反応を起こします。移植後長い経過でDSAができてしまうと慢性抗体関連型拒絶反応を起こし、これが移植腎機能廃絶の主な原因となります。2回目の腎移植や輸血、妊娠出産などでDSAができていると腎移植が難しくなります。DSAの有無を調べるためにクロスマッチ検査を行います。
ドナー移植コーディネーター
提供された臓器をレシピエントに適切に渡るよう調整する斡旋業務を行う人のこと。日本では唯一の斡旋機関である日本臓器移植ネットワーク、そしてネットワークから委嘱を受けた都道府県、および院内ドナーコーディネーターの3種がありますが、斡旋業務ができるのは前2者となっています。病院から、臓器提供についての説明を希望する家族がいるとの連絡があれば臓器提供について説明します。提供が決まったら、ドナーの医学的管理が適切に行われるように病院の医療スタッフと連携し、検査の手配や手術室の調整を行うなど、家族に寄り添いながら、気持ちのケアを行います。
糖尿病性腎症
糖尿病が進行すると様々な合併症が起こってきます。糖尿病が原因で腎臓が悪くなった状態を糖尿病性腎症といいます。腎臓が悪くなると、尿中にアルブミンというタンパク質が漏れ出てきますが、そのアルブミンが漏れる量により病期が1から3へと進んでいきます。そろそろ透析や移植などの腎代替療法が必要になると病期第4期、透析になると第5期と分類されます。糖尿病性腎症も腎移植の適応となります。また1型糖尿病により腎不全になった場合には膵腎同時移植の適応となる場合もあります。