2019.01.31

理事長より新年のご挨拶

もう一歩前へ進め

昨年は「移植医療は臓器提供の意思に応えることである」を信念として行動して参りました。移植医療啓発のために、集中治療医学会、脳神経外科学会、救急医学会などの脳死状態の患者さんを治療する学会の定期集会にブースを出し、吉田克法広報委員長と日本各地に出かけ、多くの方に移植医療の現状をご理解いただくことができ、また、救急領域に多くの友人ができました。おかげさまで、2018年脳神経外科学会で講演する機会をいただくことができました。また、2019年脳神経外科救急医学会では移植の特別シンポジウム、脳死判定や臓器提供のハンズオンセミナーのコーディネートの依頼を受けました。さらに、厚生労働省科学研究費横田班の応援をいただき、バルセロナDTI国際研修コースを卒業した救急医学会の若手と県コーディネーターと腎臓内科医を選抜し、DTI上級コースに派遣致しました。その成果は移植学会や救急関連学会で報告され、厚生労働省の臓器提供推進の拠点病院プロジェクトとして2019年度の特別予算がつきました。そういった地域のあっせんとJOTを経済的に支えるために、32年保険改定では、外保連関連の移植費用の増点を一切封印し、臓器あっせん料の新規保険収載を目指します。まさに、臓器提供に必要な、人、金、物のインフラ整備が漸く動き始めました。

2018年は、残念ながら脳死臓器提供がわずかに減少致しました。今後の増加を見越して取り組んでいる脳死移植環境改善が思うようには進捗しておりません。まず実施すべきことは提供病院に集合する外科医を現在の30人から6人に減らすことです。移植医にも提供施設にもJOTにもメリットがあります。横田班と厚生労働省移植医療対策推進室とJOTと協力して推進しておりますが問題は山積みです。

移植学会が10年計画で進めている抗体関連拒絶克服プロジェクトは、2018年に抗HLA抗体測定保険収載を実現し、「臓器移植抗体陽性診療ガイドライン」を出版しました。現在、リツキサンとIVIGの保険収載を目指して企業治験や臨床研究を進めています。その後は、リツキサンをベースにしたレジメを想定して、補体阻害薬やIL-6阻害薬の適応拡大を計画しています。免疫寛容プロジェクトも静かに進行しています。また、移植関連の感染症や生体臓器提供に関わるガイドラインの作成も推進中です。

次世代の指導者育成にとって重要なことは、人材の発掘とネットワーク構築です。次世代リーダーセミナーはその核であり、AMED江川班や横田班江川分担班での強引とも言える若手起用と動員は、彼らの優秀な才能を励起し、自らの可能性を気づかせるのに一役買ったのではないかと自負しています。

年末にご縁があり加持祈祷をいただいた日光輪王寺のお坊さまから、「護摩壇の正面におられる仏様は不動明王である。普通のお寺のようにおだやかなお顔の仏様と異なる不動明王をお祭りするのは、忿怒の形相と剣で脅かし、縄で引っ張ってでも、衆生を救う強い意思を表したものです」と伺い、「もう一歩前へ進め」と言われた気がしました。臓器提供の意思に応え、臓器不全患者を一人でも多く救うために、もう一歩前に共に歩みましょう。

2019年1月吉日
日本移植学会
理事長 江川 裕人

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