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ドナー交換腎移植に関する見解


平成16年6月11日

日本移植学会
理事長 田 中 紘 一

ドナー交換腎移植とその医学的必要性の有無
 ドナー交換腎移植は韓国など少数の国と施設において実施されている医療で、ドナー・レシピエント間のABO式血液型不適合、リンパ球クロスマッチ陽性、HLAの完全不適合などが存在する場合に、ドナーを交換することによってこれらの問題を解決して相互の移植を実現することを目的としている。
 しかしながら、近年における移植医療技術の進歩によりこれらの条件における腎移植の成績が向上しつつあり、多くの移植専門医はドナーを交換して移植を実施しなければならないような絶対的な医学的必要性は決して大きいものではないと考えている。


背景と経緯
 わが国においては死体からの臓器移植が種々の理由で実施が困難であるために、いまだに生体臓器移植が多くを占めている。日本移植学会では死体からの臓器移植提供への理解を深めるための努力を引き続き行う一方、このような実状に鑑みて、生体ドナーからの臓器移植に際しての原則についても関心を払ってきた。すなわち、ドナーとなりうる範囲を親族とすること、ドナーの人権保護のために第三者による意思確認の義務化、などを骨子として2003年10月28日に「倫理指針」の改訂を行ったところである。
 この倫理指針の改訂案が承認される直前の2003年10月1日と3日に、九州大学医学部付属病院において2組の夫婦間でABO血液型不適合を解決する手段としてドナー交換腎移植が同大学医学部倫理委員会の承認の下に実施された。
 日本移植学会倫理委員会では当該のドナー交換腎移植の経緯を当事者である医療チーム責任者と同大学医学部倫理委員会から説明を求め、個別の事例としての問題点の有無と今後のわが国におけるあり方について検討を行ってきた。


ドナー交換腎移植に関わる倫理的考察
 健康なドナーからの臓器移植は本来望ましい移植医療の形態ではない。死体腎移植が困難な場合に親族などの近親者からの臓器提供を計画する際には、ドナーの人権を最大限に尊重しつつ、ドナーにおける健康被害の発生や移植結果の不良などが起こりうる可能性を前提にして、対象となるドナーとレシピエントへの十分な説明と同意取得を行わなければならない。
 ドナー交換腎移植においては、ドナーが直接自分の近親患者に提供するのではなく、また2つの移植の結果が同等であるという保証がない条件下で行うことから、多くの倫理的問題が存在すると認識せざるをえない。


日本移植学会の見解
 日本移植学会では倫理委員会における検討の結果、次のような結論に達した。
(1)ドナー交換腎移植は親族間で行われるものでない生体臓器移植ではあるが、それぞれの親族のために自分の臓器を提供するという意思に基づくものであり、親族に準じる関係における生体臓器の提供の余地を認める現在の日本移植学会倫理指針に反するものではない。
(2)しかし、ドナー交換腎移植は医学的・倫理的に大きな問題を含むものであり、個別の事例として各施設の倫理審査のもとに行われるべきものである。したがって、ドナー交換ネットワークなどの「社会的なシステム」によりドナー交換腎移植を推進すべきものではない。
(3)日本移植学会の会員が個別の事例としてこのような移植を計画する場合には、学会の倫理指針に則った手続きが必要であると考える。その際、医療者側から移植手術後におこりうる様々な状況についての十分な説明が行われた上で、双方のドナーにおける提供の任意性などについては、いずれのドナーやレシピエントとも関係のない中立的な立場にある弁護士や精神科医などにより確認することが望ましい。また、症例毎に個別に当該医療機関の倫理委員会の承認を受けるとともに、日本移植学会に意見を求めるものとする。

[参考1]「日本移植学会倫理指針」より該当部分を以下に抜粋
[2]生体臓器移植(1)*2
親族に該当しない場合においては、当該医療機関の倫理委委員会において、症例毎に個別に承認を受けるものとする。その際に留意すべき点としては、有償提供の回避策、任意性の担保などがあげられる。また、実施を計画する場合には日本移植学会に意見を求めるものとする。日本移植学会は倫理委員会において当該の親族以外のドナーからの移植の妥当性について審議し、その是非についての見解を当該施設に伝えるものとするが、最終的な実施の決定と責任は当該施設にあるものとする。

[参考2]ドナー交換腎移植に際しての留意事項
*1 施設外の専門家も含めた医学的適応の検討
・ 疾患としての適応
・ ドナー交換の必要性
・ 2人のドナー腎の同等性(年齢、腎機能、解剖学的異常の有無など)
*2ドナーの人権の保護と有償提供の回避策の確認
・ 家族以外の第三者(弁護士や精神科医など)による提供の任意性と無償性の確認
・ 当該施設の倫理委員会による確認
*3 移植実施の同時性と医療技術の同等性
・ 2組の腎臓摘出術を同日のほぼ同時刻、または連続して実施すること
・ 実際の移植ペアの摘出と移植手術は同一施設内で実施すること