移植用語辞典

英数字・記号
ATG
抗胸腺細胞グロブリン(Anti-thymocyte globulin)。ヒト胸腺細胞をウマ、ウサギ、ヒツジなどの異種動物に免疫した血清からグロブリンを分画・精製して作製する。免疫原としてヒトリンパ球または培養リンパ芽球を用いた抗リンパ球グロブリン(Anti-lymphocyte globulin,ALG)とともに、リンパ球に対する特異抗体により免疫系を抑制する免疫抑制薬の総称である。臓器移植後急性拒絶反応の治療に用いられるが、異種蛋白であり、アナフィラキシーによるショックなどの副作用に留意する必要がある。
HLA
HLA(Human Leukocyte Antigen)はヒトの自己と非自己の区別を決める遺伝子座ないし免疫応答の標的となる白血球の表面にある抗原を指す。マウスのMHC(Major Histocompatibility Complex:主要組織適合性複合体)と同じ役割を担う。HLA分子は構造と機能からクラスIとクラスIIに分けられる。HLAクラスIはすべての有核細胞で発現され、内因性ペプチドを抗原として提示する。CD8陽性T細胞に認識され、非自己細胞やウイルス感染細胞等の排除に重要である。クラスIIは抗原定時細胞に発現し、外来性ペプチドを提示する。CD4陽性T細胞に認識され、非自己抗原の排除に重要である。
mTOR阻害薬
細胞内で信号伝達を行うタンパク質であるmTOR(mammalian target of rapamycin)を阻害する。シロリムスとエベロリムスがある。エベロリムスはmTORC1にのみ作用し、mTORC2には影響しない。mTORC1のネガティブフィードバックはAKTキナーゼを活性化し、かつmTORC2を阻害しないためポジティブフィードバックがおこりAKTを活性化する。このAKTの活性化はある種の細胞をアポトーシスへ導く。T及びBリンパ球を抑制し、移植臓器への拒絶反応を抑制する。免疫抑制作用以外に、がん細胞増殖抑制、血管内膜肥厚抑制、ウイルス増殖抑制などの作用を有している。
NK(ナチュラルキラー)細胞
ナチュラルキラー(NK)細胞は腫瘍細胞やウイルス感染細胞の排除に重要である。NK細胞の標的細胞障害作用は、抗原特異性や、MHC拘束性はなく、T細胞のような感作を必要としない自然免疫である。NK細胞はNK活性化レセプターが標的細胞の糖タンパクなどを認識して抗体依存性細胞傷害(ADCC)により細胞を傷害する。Tcと異なりMHC非拘束の細胞傷害が特徴であるが、標的細胞にMHCクラスⅠが存在しているとNK細胞のキラー阻止レセプターに作用してアポトーシスが抑制される。癌細胞などではMHCクラスⅠが減少または消失しているため、NK細胞が細胞を傷害する。
Tリンパ球関連型拒絶反応
Tcell mediated rejection(TCMR)は、拒絶反応のうち細胞傷害性Tリンパ球(Tc)が移植臓器に浸潤する事により臓器障害をきたす。TcはCD8陽性T細胞がTh1から分泌されるIL-2とIFN-γの刺激を受けて分化増殖する。TcはTh1と同じ抗原レセプターを有しており、これがgraftを認識して攻撃する。
免疫抑制薬とくにカルシニューリン阻害薬とバシリキシマブの使用により発生率は著明に低下したがこれらの薬剤の血中濃度が低下した場合には発生する。ステロイドパルス療法が第一選択であるが難治性の場合には抗ヒト胸腺細胞グロブリン(ATG)を使用する。