移植用語辞典

か行
カルシニューリン阻害薬(CNI)
カルシニューリン(Calcineurin:CN)は細胞内シグナル伝達に関与する酵素(プロテインホスファターゼ)の一種である。異物が体内に侵入した時に、「異物だ」ということを知らせる役目を持っている抗原提示細胞が、その情報を伝達するためにリンパ球の一種のT細胞にあるT細胞受容体に結合すると、CNが活性化され、活性化されたCNが活性化T細胞核内因子(Nuclear factor of activated T-cells、NF-AT)と呼ばれる複数の転写因子(遺伝子であるDNAに特異的に結合するタンパク質)を核内に移動させる結果、サイトカイン(細胞間の情報伝達物質)の1つであるインターロイキン-2(IL-2)の発現を誘導する。IL-2はヘルパーT細胞を活性化して他のサイトカインの産生を促進し、また細胞傷害性T細胞とNK細胞の機能を促進する。カルシニューリン阻害薬(CNI)は、細胞内で直接の標的タンパク質(イムノフィリン)とまず結合し、このタンパク質複合体がカルシニューリンに結合してこれを阻害し、IL-2の誘導を抑制することで免疫抑制効果を発揮する。代表的なCNIにはシクロスポリン(CsA)とタクロリムス(Tac)があり、どの臓器においても基本的薬剤であるが、腎機能障害、神経障害などの副作用があり、血中濃度の適切なモニタリングが必要な薬剤である。
ガンシクロビル
臓器移植患者さんのサイトメガロウイルス感染症の治療もしくは予防目的で投与される薬剤である。ガンシクロビルは、細胞内に入ると、臓器移植後に日和見感染を起こす、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルスや水痘帯状疱疹ウイルスのキナーゼの作用によりガンシクロビル5'-三リン酸となり、DNAポリメラーゼに作用して、デオキシリボ核酸(DNA)の原材料であるデオキシグアノシン三リン酸(Deoxyguanosine triphosphate、dGTP)が核酸合成に使用されるを完全に阻害する。ガンシクロビル三リン酸は、宿主であるヒトよりもウイルスのDNAポリメラーゼにより高い親和性を有していて、ウイルスDNAに直接結合することによりDNA鎖が伸長していくのを阻害し、前述のウイルスが増殖するのを阻害する。副作用には、好中球減少症・血小板減少症・貧血、中枢神経症状、発熱・発疹などがあり、血球数のモニタリングが大切である。
抗IL-2受容体抗体
インターロイキン-2(Interleukin-2, 略称: IL-2)は、未分化なT細胞(ナイーブT細胞)や1型ヘルパーT細胞が産生するサイトカインの1つである。T細胞の細胞膜上にはT細胞受容体(T Cell Receptor, TCR)が発現しているが、マクロファージ等の抗原提示細胞からの抗原提示を受けることによりIL-2を産生する。IL-2の受容体はT細胞、B細胞、マクロファージ等の細胞にあり、IL-2がこのような細胞の受容体に結合すると、T細胞の増殖及び活性化、B細胞の増殖と抗体産生能の亢進、単球・マクロファージの活性化、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の増殖・活性化、リンホカイン活性化キラー細胞(LAK細胞)の誘導などが起こる。カルシニューリン阻害剤(CNI)は転写因子NFATの脱リン酸化を抑制し、IL-2の産生を抑制し、免疫抑制効果を発揮する。一方、抗IL-2受容体抗体は、上記の細胞のIL-2受容体に結合し、T細胞から産生・分泌されたIL-2がその細胞のIL-2受容体に結合するのを阻害するため、免疫抑制効果を発揮する。臨床応用されている抗IL-2受容体抗体は、ダクリズマブとバシリキシマブの2つのマウス・ヒトキメラ抗体製剤であるが、国内ではバシリキシマブしか認可されていない。国内では腎移植後の急性拒絶反応の抑制しか認可されていないが、腎機能障害例、高齢者、小児などでは他の臓器の移植でもCNIやステロイドの減量をしながら免疫抑制をする際には有用であり(欧米では使用され、ガイドラインでも推奨)、今後保険適応となることが期待されている。
抗原提示細胞(APC)
ドナーの抗原を認識するメカニズムとして、移植臓器由来の抗原提示細胞(APC)がレシピエントのTh1に結合する直接認識とレシピエントのAPCがTh1にドナー抗原を提示する間接認識がある。APCには樹状細胞、単球・マクロファージ、B細胞があり、いずれも細胞内に取り込んだ抗原を断片化しMHCクラスⅡ分子上に抗原ペプチドを発現させる。APCのクラスⅡはCD4陽性Th1のTCRと結合して抗原情報をThに伝達する。
抗CD20抗体
CD20分子は、末梢血、リンパ節、脾臓、扁桃、骨髄中のすべての正常B細胞に存在する膜貫通型の糖鎖不含タンパク(なお、形質細胞には存在しない)である。臓器移植医療の分野で抗CD20抗体は、B細胞に起因するような疾患(移植後リンパ球増殖症:PTLD)の治療や、ABO血液型不適合移植や抗HLA抗体陽性移植の場合の抗体関連型拒絶反応(antibody Mediated Rejection: AMR)の予防、さらには移植後のAMRの治療などで有効な薬剤である。現在臨床応用されている抗CR20抗体はリツキシマブと呼ばれ、本剤は、従来は血液疾患にのみ保険適用があったが、現在では、①免疫抑制状態下のCD20陽性のB細胞性リンパ増殖性疾患、②ABO血液型不適合腎移植・肝移植における抗体関連型拒絶反応の抑制にも適用が拡大された。今後、他の臓器移植後の抗体関連型拒絶反応の抑制にも適用が拡大されることが期待されている。副作用には、アレルギー反応・腫瘍崩壊症候群・肝炎の悪化などがあり、副反応に注意しながら、投与量や投与速度を加減することが重要である。
抗ドナー抗体
ドナー表面抗原に対する特異的抗体(DSA)は抗体関連拒絶反応(AMR)の主体となり移植臓器障害をもたらす。主なものに血液型抗原に対する抗体(抗A、抗B)とMHCクラスⅠ、Ⅱに対する抗体(抗HLA-DSA)がある。血液型抗体は生理的に産生されているが抗HLA抗体は移植・輸血・妊娠等の感作によってもたらされる。移植前のDSAは既存抗体であり、抗体量が多い場合には超急性拒絶反応を発症してGraftは速やかに廃絶されるため、移植前にリンパ球交叉試験にて抗体の有無を確認する必要がある。移植後に産生されるde novo DSAは慢性AMRの原因となる。
高尿酸血症
高尿酸血症とは、核酸(DNAなど)の合成に不可欠なプリン体の産生過剰あるいは排泄低下により、尿酸の血中濃度(通常7mg/dL以下)が異常に高くなった状態のことである。高尿酸血症は腎機能障害のリスクファクターであり、血清尿酸値は慢性腎臓病(CKD)、高血圧の発症や進展と関係する。また、痛風関節炎、尿路結石の直接的原因となる。食事療法および薬物療法が勧められている。急性尿酸性腎症および主要融解症候群による二次性高尿酸血症は緊急治療が必要な病態である。