理事長挨拶

理事長 江川 裕人
理事長 江川 裕人

現在の執行部になり丸3年が過ぎた。安心安全な移植医療の高いレベルでの標準化と人材育成をビジョンに、一丸となって取り組んだ結果、当初の目的であったガイドライン整備、基礎・臨床方面の学術集会、免疫抑制療法の適応拡大と術後DSA測定保険収載、小腸移植保険収載、移植費用増額が実現した。さらに現在、DSAに対するリツキサン、IVIGやシムレクトなどの抗体製剤の適応拡大をPMDAと協力して進めている。

臓器提供については、提供に関連する学会や会員と研究班や学術会議や個人的交流をとおし、穏やかにかつ積極的に理解を深める努力をすすめてきた。そこで気づいたことがある。ドナーの死とレシピエントの生、悲しみと喜びがつながるには、提供の現場で働く人たちに移植の素晴らしさを伝えることは大切である。しかし、一人の命を救えなかった彼らの悲しみ・痛みを移植側で働く人たちが我がこととして、心の奥底におとしこむことができなくてはならない、ということである。思いがけない死を迎えざるを得なかったドナーとその家族の思いを受けて、その臓器を一日でも健やかに生かし続けることがバトンを渡された移植医の使命であり、その結果、臓器不全の患者が健やかに生きる。慈しみにつながる悲しみこそ医療者の行動原理であると考える。

さて、一般社会の移植医療と脳死への好意的理解を背景に、脳死臓器提供数は緩やかではあるが増加している。生体移植ができない心臓移植待機死亡をなくすためには年間500例が必要である。しかし、実際に500例提供があるときに今の移植医やJOTが対応できるか、極めて不安である。脳死・心停止移植環整備委員会ではこの問題に取り組み提供関連学会と共同で厚労科研横田班として研究を進めている。移植医の負担軽減について具体的な方策を議論する一方でリカバリー手術へ派遣される医師の就労状況、つまり賃金や事故の際の身分保障についても厚生労働省と協力して実態調査を始める。将来の摘出費用増点につながる重要な調査になる。

また、日本で唯一の斡旋機関であるJOTはもともと年間10例程度を想定して国庫補助金を財政基盤として設計された経緯があり、提供数増加にともなう人件費増加が想定されていなかった。このため現在、移植施設と提供施設が移植手術代と摘出手術代から10%をJOTに資金援助しているが、自助努力にもかかわらず巨額の赤字となっている。提供数が増加するほど赤字は拡大していくため、2年後には倒産も危惧されている。移植医療の危機を回避するためには、緊急避難的に資金援助を18.5%に増額する必要があるが、来年の消費税増額もあり移植施設の経営を圧迫することになる。その打開策は斡旋費用を新規医療費として保険収載することである。現在の摘出手術代には斡旋に必要な経費は計上されていないので、論理的には可能であることをすでに行政と協議して確認してある。これが実現すれば、斡旋機関の独立経営が可能になることから地域のOPO創設が可能になるだけでなく、結果的に現在のJOTへの資金援助も終了するのでその援助額全額が医療施設の収入増となる。そこで、平成32年改訂での保険収載をめざし中川健理事率いる保険診療委員会が始動した。平成30年秋の外保連への働きかけから始まり、平成32年3月末の厚労省との最終掲載文言の駆け引きまでシームレスな活動が必要である。斡旋機関が自走できる仕組み作りは未来に移植医療が続くための基盤整備である。この乾坤一擲の大仕事のためには平成31年9月で二期目の任期を終える多くの理事に継続して務めてもらう必要があり、理事の任期を2期から3期へ延長することが、平成30年1月の理事会と同年10月の社員総会で承認された。なお、期末の社員総会での選挙による選出を経ることと選出時65歳未満の規定は変更されない。

忘れてはならない向こう5年にやるべき使命のなかに、次世代のリーダー育成がある。これまで4年にわたり次世代リーダー養成セミナーを通して多くの志ある移植医に出会うことができた。ただ、応募方法が理事推薦であったために縁なく出会えていない逸材がいるはずである。彼らに出会えるような応募方法に改めていきたい。さらに、次世代リーダー養成セミナー卒業生を対象に、移植医療が抱える社会的課題を考える素養を身に着ける上級セミナーも計画してみたい。彼らは、すでに、高き人格と広き知性と深き慈愛を備えた移植医である。老体があれこれおしつける必要はないのであるが、蒙昧な自らの歩みを鑑みて、これだけは人生のなかで早いほうが良いと考えている。

会員のご理解と応援を乞う。

平成30年12月吉日