臓器移植Q&A

臓器移植全般臓器移植全般

移植後の食事、生活

移植後はどのような生活ができますか?
移植される臓器ごとに移植後の生活は異なりますが、臓器移植全般について述べます。
臓器移植を受けると、障害されていた臓器の機能が回復するので、生活は一変します。合併症がなければ、社会復帰し、活動範囲が増加して、生活の質(QOL; Quality of Life)が向上します。ただし、100%完全に回復というわけにはいかないことが多いです。
また、移植後は免疫抑制薬を飲まないと、自分の免疫担当細胞や抗体が、頂いた臓器を攻撃して痛めてしまいます(拒絶反応といいます)。そのため、一部の臓器移植を除いて、移植を受けた人は移植臓器が機能している間は免疫抑制薬を飲まなくてはいけません。
さらに、免疫抑制薬を飲むと、病原体(細菌、カビ(真菌)、ウイルスなど)からの防御機能が低下するので、感染症にかかり易くなります。また、免疫抑制薬には副作用があります。そのため、いろいろな日常生活の制限が必要です。これらについては移植待機中にしっかりと勉強しておくようにしましょう。移植後注意しなければいけないことがたくさんあって大変なことも多いと思いますが、臓器を提供していただいたドナーを想えば、その臓器を大切にしなければなりません。
移植後の食事はどのようなことに気をつける必要がありますか?

下記のようなことに気をつけてください。

  • バランスの取れた食事を心がけましょう。
  • 脂質の多い食事は控えましょう脂質異常症は慢性臓器障害とその機能低下の要因の1つになります。肥満は高血圧や動脈硬化を引き起こし、移植臓器を傷つけて機能低下につながります。
  • 良質のタンパク質を摂りましょうステロイドや手術の影響で筋力が低下しています。痩せや筋力低下は生命予後悪化につながります。
  • 塩分を控えめに免疫抑制薬の長期服用によって高血圧をきたすことが多いため、インスタント食品や加工食品は避けましょう。
  • 細菌が増殖して腐っている可能性がある食物(古くなった生ものなど)には感染症防止のため、注意してください。
感染症や拒絶反応の予防において、食べ物で注意することはありますか?

消化器の感染症は下痢を起こし、薬の吸収を妨げます。そのため、“新鮮でないもの”は避けてください。ご家族の協力も大切です。移植した臓器によって、食べてもよいものが異なりますので、詳しくは必ず、それぞれの臓器についてのQ&Aをご確認ください。また、移植を行った施設の移植医や管理栄養士とよく相談しましょう。
一般的に中止すべき食べ物は以下のとおりです。

  • 調理後、数時間(2~3時間)を超えて不適切な保存方法で経過した食品や生もの(雑菌が繁殖して感染の危険性が増します)
  • カビを含んだチーズ(移植臓器の種類、施設によって異なります)
  • 消費期限切れの食品
  • 自宅で漬けたつけもの(移植臓器の種類、施設によって異なります)

基本的には身体に悪影響を及ぼすような細菌(雑菌)が繁殖している可能性がある食物は避けるべきです。移植の種類や患者さんの状況によっても異なりますので、主治医や管理栄養士に確認してください。

薬の作用に関係する食べ物はありますか?

グレープフルーツなどの柑橘類の多くは、免疫抑制薬の血中濃度を上げるため食べないでください。グレープフルーツジュースも飲まないでください。
また、セイヨウオトギリソウ(セントジョーンズワート)を含むもの(ハーブティーなど)は、免疫抑制薬の血中濃度を下げるため食べないでください。
移植で使用する薬に関する書籍(「腎移植とくすり」など)を参照してください。

移植をすれば社会復帰が出来るのでしょうか?
社会復帰は臓器移植の最終目的の1つです。臓器毎に基準が異なりますが、規則正しい生活が出来、清潔な環境にある職場であれば退院後数カ月で復帰可能です。ただし、感染症にかからないために、粉塵の発生する職場など衛生面で問題があるような場合は、仕事内容を考えなければならないことがありますので、職場復帰を考える場合は、必ず移植チームに相談をするようにしましょう。社会復帰を円滑に行うため、移植手術後の入院中も体力が落ちないように心がけて、早期にリハビリテーションを始めるようした方がよいといわれています。歩行などで筋力低下を防ぐように理学療法士と相談するのがよいでしょう。社会復帰についてはソーシャルワーカーにも相談しましょう。なお、過労は移植臓器に悪影響を与えるので注意しましょう。
移植後運動はできますか?

移植後は体力増進、体重コントロールの為に積極的に適度な運動を行いましょう。移植前までの状況により、筋力の回復スピードは人それぞれです。焦らず出来ることから始めて、徐々に運動量を増やしてください。適度な運動は移植臓器の機能を保つために重要だとされています。また、筋力を保つことは長生きにつながります。疲れを残したり、不規則な生活、暴飲暴食をしたりしないようにしなければなりません。

ペットを飼ってもいいですか?

臓器移植後、免疫抑制薬がある程度減量され、急性拒絶反応の危険性が落ち着いてきた場合には基本的には大丈夫です。ペットは精神の安定によいといわれています。ただし、下記に気をつけてください。特に感染症が問題になることがあります。それぞれの移植臓器によっても異なりますので、詳しくはそれぞれの施設の移植医に確認してください。

  • ペットを飼う際は、猫、鳥は避けましょう。
  • ペットは出来るだけ室内では飼わないようにしましょう。
  • ペットの散歩は構いませんが、移植後3カ月以内はやめてください。
  • ペットを触った後は手を良く洗ってください。
  • ペットとのキス、口移しで食べ物を与える行為は避けてください。
  • ペットの世話は誰かにしてもらってください(例えば:ペットを洗う、ペットの小屋の掃除など)。
  • 病気のペットの世話も誰かに代わって行ってもらいましょう。
  • 動物の尿や糞便、嘔吐物がついているものには触らないでください。
  • 鳥はカビなどの菌を運んできたりするため、飼わないでください。もちろん手に乗せたりして、噛まれるような危険のある行為はしないでください。
  • 鳥からの落下物(特に鳩は真菌(カビ)を運ぶ)は、免疫抑制状態の患者さんにとっては危険です。
  • 日常生活では、鳥の多いところを通行するのは避けましょう。やむを得ず通る場合は必ずマスクを着用してください。
  • 猫は自由に行動し、ねずみなどを捕ったりすることで、感染を媒介することがあります。
お酒を飲んだりタバコを吸ったりしてもいいでしょうか?

免疫抑制薬を内服している人が喫煙を続けると、食道や肺のがんにかかりやすいということが分かっています。がんにならないためにも、タバコは吸ってはいけません。移植前からの禁煙が必要です。また、喫煙は、移植した臓器の血管の内壁を収縮させ、細くしますので、移植臓器の機能を低下させ、悪化させることも知られています。

飲酒は禁止ではありませんが、過度のアルコール摂取は控えましょう。大量飲酒により嘔吐や下痢を起こすと免疫抑制薬が正しく吸収されません。また、免疫抑制薬はそれだけで、糖尿病などが発症しやすい上に、アルコールによって糖分を摂りすぎることは、さらにその危険性を増やします。飲酒の際の肴により、塩分を多く摂ると高血圧になりやすくなります。痛風を起こすと腎臓にも悪影響を及ぼします。提供された臓器を大切にするためにも、アルコールは少量たしなむ程度にしましょう。尚、当然ながら肝臓移植をした人は、禁酒してください。

執筆:吉田 一成・湯沢 賢治

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