臓器移植Q&A
拒絶反応、感染症、合併症
肺移植は複雑な大手術です。細心の注意を払って手術や術後の管理が行われます。しかし、手術中の出血、手術後の拒絶反応や感染症など、いくつかの危険性があり、肺移植が原因で死亡する可能性もあります。
移植直後には、血管をつなぎ合わせた所や、悪い肺を取り出すときにはがした所などから出血することがあります。このため、ほとんどの移植手術で、赤血球や血小板などの輸血が必要となります。
移植された肺がうまく働かない場合もあり、原発性移植肺機能不全とよばれ、肺に水がたまった肺水腫の状態になります。移植肺で酸素を十分に体に取り入れることができなくなります。肺水腫の程度がひどい場合は、移植肺が回復するまで体外式膜型人工肺(ECMO)を使用しなくてはなりません。
その他にも、気管支をつないだ部分の治りが悪かったり、つないだところが狭くなったりすることがあります。高度に狭くなった場合は、気管支鏡などを使用して狭くなった部分を広げる必要があります。
移植を受けた後は、自分自身で健康管理に気を配る必要があります。ご自分の健康状態(体温、脈拍、体重など)をきめ細やかに観察し、移植チームと連絡を取りながら移植後の生活を送ります。退院後は、ご自宅でも簡易型呼吸機能検査の機器やパルスオキシメーター(酸素飽和度を測る機器)を使い、肺機能のチェックを行います。
適切な自己管理を続けていても、慢性拒絶反応や感染症を起こす場合があります。もし肺機能に悪化が見られたら、直ちに移植施設に報告してください。肺に拒絶反応や感染症などの問題が生じた兆候かもしれません。拒絶反応や感染症に対する治療の遅れは、取り返しのつかない結果となる場合があります。
移植後順調に回復した場合は、酸素吸入や車椅子も不要となります。多くの方が自己管理をしながら仕事や家事をされるなど、社会復帰しています。
移植された肺の細胞は、レシピエント自身とは異なった細胞からできています。このため、免疫の働きによって、移植された肺は異物として認識され、そのままでは拒絶されて機能しなくなってしまいます。これを防止するために、免疫抑制薬を生涯服用する必要があります。拒絶反応には、急性拒絶反応と慢性拒絶反応の2種類があります。
急性拒絶反応は、息切れ、発熱、運動能の低下、血液中の酸素濃度の低下、胸部レントゲン写真の異常などの出現によって推測されますが、正確には移植肺の生検(肺組織小片の採取と病理検査)を行う必要があります。生検は気管支鏡を使用して局所麻酔で行う場合と、全身麻酔下に手術室で行う場合があります。急性拒絶反応に対しては、ステロイドの静脈注射などの治療が必要となります。
慢性拒絶反応は、移植後3カ月を過ぎると出現することがあります。残念ながら、現在では慢性拒絶反応に対する確立した有効な治療法は見つかっていません。しかし、免疫抑制薬を増量したり、種類を変更したりして、呼吸機能の維持に努めます。
免疫抑制薬は、免疫能力(外部から体内に侵入する異物に対する抵抗力)を低下させる薬のため、同時に細菌・ウイルスなどの病原体に対する抵抗力も低くなるため、感染症にかかり易くなります。このため、感染症を予防する薬も定期的に飲み続ける必要があります。
感染症を防ぐためには、患者さんご自身の心がけも非常に重要です。例えば、人混みに入るときや風邪・インフルエンザが流行っている時期の外出時にはマスクをする、外から帰ったときには、うがい・手洗いを徹底する等です。これらの積み重ねが感染症から身を守るために非常に重要です。
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